11:「ラウンドアップ」のヒトへの発がん性と多様な毒性〈下〉 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・他の農薬の危険性
本稿では,除草剤グリホサートに焦点を絞ったが,現在の日本では毒性が確認されている有機リン系,ピレスロイド系,ネオニコ系などの殺虫剤や,グルホシネートやパラコート,2,4-D,ジカンバなどの除草剤,さらに殺菌剤を含み,農薬が大量に使用されていることも問題である。

OECD加盟主要国中の農地単位面積あたりの農薬使用量では,日本は韓国と1, 2 位を争っており,2015年度はトップとなっている。

たとえそれぞれの曝露量が低濃度で基準内であっても,複合曝露影響については調べられていないので,人体実験を行っているともいえる。

農薬は“農の薬” と書くが,何らかの生き物を殺す殺生物剤なので,基本的に毒物で,人間にも害を及ぼす可能性が高い。

生物は38 億年の生命の歴史のなかで,多くの共通の生理化学物質を使って進化してきた。

害虫だけ,雑草だけ,病原菌だけを殺す農薬はほぼないと言っても過言ではない。
国内では,ドローンを使った農薬の空中散布を推進しようとしているが,国土が狭い日本では農地の傍に人家や公共施設があるため,農薬の拡散が懸念される。

ドローンでは飛行機より低い位置で撒くから安全としているが,搭載できる容量が少ないために,高濃度の農薬を使用するとしており,空中での拡散は免れない。

EU では,農薬の空中散布は危険だとして,原則全面禁止となっている。

呼吸から肺に入った農薬は,そのまま血中に入り全身に運ばれる。

経口で取り込んだ場合は一旦肝臓で解毒されるため,経気吸入はより危険だ。

現行の農薬の毒性試験には,成獣を用いた急性吸入毒性試験が入っているだけで,慢性吸入影響や子どもへの吸入影響は調べられていない。

国交省ではドローンの墜落事故が農薬散布を含み多数報告されている。

農産物の生育状況を調べるのにドローンを使用するなどはよいが,安易なドローンによる農薬空中散布の推進は危険だ。
2016 年発表された国内の子どもの尿検査では,有機リン系代謝物100%,ピレスロイド系代謝物100%,ネオニコ系農薬約80% と高率に検出しており57,検査項目を増やせば,多種類の農薬が検出されることだろう。

*2,内分泌攪乱作用は入っておらず,グリホサートやネオニコのように農薬製剤が農薬原体に比べ,100 倍も毒性が高い場合もあるのだ。現行の安全基準以内だからといって,安全性は保障されておらず,毒物に感受性の高い子どもへの影響が懸念される。

ましてや前述したように,農薬の毒性試験に発達神経毒性除草剤グルホシネートは,グリホサートと共に組換え遺伝子作物用として開発されたが,国内では通常の除草剤として使われてきた。グルホシネートはグルタミン酸とリン酸から合成される有機リン化合物で,化学構造はグルタミン酸によく似ている。

グルタミン酸は前号〈上〉に書いたように,非必須アミノ酸であるだけでなく,重要な興奮性神経伝達物質である。

帝京大学・藤井儔子の研究では,グルホシネートを投与したラットは激しく咬み合うなど攻撃性を増すだけでなく,母胎経由で曝露した仔ラットは,普通はおとなしい雌の仔ラットまでお互いに咬み合うなど易興奮・攻撃性を生じることを報告した58。

グルホシネートはNMDA 型受容体への作用も報告されており59,EU では生殖毒性のために,2018 年に登録が抹消されたが,国内では使用が継続している。

100円ショップ・ダイソーでは,市民からの要請に応え,グリホサート含有除草剤の販売を中止したが,代替にグルホシネート含有除草剤の販売を開始したため,筆者はダイソーに販売を中止するよう要請中である。
環境ホルモン作用をもつ農薬も多種類使われており,子どもへの影響が懸念される。残念なことに日本では,環境ホルモンは空騒ぎという風潮が広がってしまったが,実際は科学的に実証されており,世界ではEU を筆頭に実際の規制が進んでいる。

内分泌系(ホルモン)の作用は人間にとって大変重要で,ことに発達期の子どもでは必須の働きをしている。

環境ホルモン物質は,プラスチック素材のビスフェノール類(ビスフェノールA 以外に代替のビスフェノールS, F など)やフタル酸エステル類,有機フッ素化合物や臭素系有機化合物なども問題だが,農薬でも多種類に環境ホルモン作用が確認されている。

表2 に見られるように,EU で環境ホルモン作用が確認されたとして,登録が抹消された農薬が,国内では使用が継続されており,ヒトへの健康影響,ことに子どもへの悪影響が懸念される。
殺虫剤は,昆虫の脳神経系を標的としており,人の脳神経系にも共通,類似性のある生理活性物質が多いため,どの殺虫剤も脳発達に悪影響を及ぼすことが報告されている。

有機リン系は,神経毒性が多数報告されてきたが,とくに2010 年頃から子どもの脳発達に悪影響を及ぼすことが多数報告された。

米国小児科学会の公的な警告(〈上〉文献37)をはじめ,2015 年の国際産婦人科連合FIGO60,2012 年のWHO/UNEP61,2017 年の欧州食品安全機関62などが,環境ホルモン作用のある物質や農薬などの曝露から子どもを守るよう,公式に勧告している。

一方日本では,世界で禁止・規制が進んでいる有機リン系,ネオニコ系,除草剤グリホサートなどは世界の動向に反して,基準値内なら安全と多量使用が継続している。
2019 年,国内で,早産で生まれた極低出生体重児の尿を調べた研究が発表された63。早産でも体重が正常な新生児に比べ,特に低体重の新生児の尿でネオニコの一種アセタミプリドの代謝物の検出率が高く,濃度も高い値であった。

低出生体重は,自閉症など発達障害や糖尿病など健康障害のリスク因子で,世界の中でも日本は低出生体重児が多い。

ネオニコ曝露はその一因となっているかもしれない。

この研究から,人でもネオニコが胎盤を通過して,胎児に移行することが明らかとなった。

ネオニコが哺乳類に悪影響を及ぼす実験研究は,次々に報告されてきており64~66,子どもへの影響が懸念される。
*2―なお,今年4 月1 日以降,農水省は農薬登録のための毒性試験に発達神経毒性を追加したが必須とはなっていない。

また試験方法も従来のOECD の方法に従ったものとなっており,高次脳機能への影響が調べられるか疑問である。