・グリホサートの内分泌攪乱作用や生殖系への影響
グリホサートには,内分泌攪乱作用(環境ホルモン作用)があることも複数報告されている。
2005 年の論文14では,グリホサート/「ラウンドアップ」をヒト胎盤由来細胞培養に添加すると,女性ホルモンを産生する酵素活性が抑制された。
グリホサート原体にも抑制作用は確認されたが,「ラウンドアップ」はその約100 倍強い抑制効果がみられた。
論文の著者らは,「ラウンドアップ」に含まれる界面活性剤がグリホサートを細胞内に入りやすくしたためと推察している。
2017 年の論文15では,ヒト乳がん由来細胞培養にグリホサートを添加すると,女性ホルモン受容体が活性化されたと報告している。
2019 年に発表16されたラットの動物実験では,胎仔期から出生後約4 カ月までの間,グリホサート/「ラウンドアップ」を米国の一日摂取許容量(1.75 mg/kg/day)投与したところ,曝露した雌では性的成熟の遅れと,男性ホルモン濃度の上昇がみられ,雄では甲状腺刺激ホルモンの上昇や,男性ホルモンの低下が確認されている。
グリホサートがどのようなメカニズムで内分泌攪乱作用を起こすのかは,今のところわからないが,その影響が危惧される。
2018 年の疫学研究17では,米国71 名の妊婦の尿中グリホサート濃度が高いと,妊娠期間が短くなり早産になる傾向が確認された。
またヒトの精子の研究では,グリホサート濃度0.36 mg/kg(一日摂取許容量以下*1)に該当する「ラウンドアップ」を加えて培養すると,1 時間後に精子の運動機能が低下し,ミトコンドリアの機能障害が観察された18。
グリホサート原体でも,ヒト精子の運動機能の低下が確認されている19。動物実験では,母体経由で「ラウンドアップ」に曝露した雄仔ラットは,成長後に精子の数の減少や形態異常がみられ,血中の男性ホルモンが減少していた20。
さらにグリホサート/「ラウンドアップ」を無毒性量の10 分の1 量(5 mg/kg/day),妊娠10 日から授乳期間に投与された母ラットは,仔ラットを舐めるなど保育行動や脳海馬に異常がみられ,腸内細菌叢のバランスも変動していた21。
この論文の著者らは,グリホサートによる内分泌攪乱作用,腸内細菌のバランス異常,NMDA 型受容体への作用など多様な毒性によって,母ラットに異常が起こったと考察している。
*1―グリホサートの一日摂取許容量は,日本で1 mg/kg/day,
EU で0.5 mg/kg/day,米国で1.75 mg/kg/day。