早すぎた裁判:カビキラー事件 | 化学物質過敏症 runのブログ

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東京高等裁判所 平成3年(ネ)1282号 判決
平成三年ネ第一二六六号事件控訴人、同第一二八二号事件被控訴人(以下「第一審原告」という。)

村山章

右訴訟代理人弁護士

中村雅人



神山美智子



関智文



山脇誓子

平成三年ネ第一二六六号事件被控訴人、同第一二八二号事件控訴人(以下「第一審被告」という。)

ジョンソン株式会社

右代表者代表取締役

本田隆男

右訴訟代理人弁護士

渡部喬一



赤羽健一



小林好則



中村光彦

右渡部喬一訴訟復代理人弁護士

仲村晋一



松尾憲治



小林聡

主文
一  第一審原告の控訴を棄却する。

二  第一審被告の控訴に基づき、原判決中第一審被告の敗訴部分を取り消し、右部分の第一審原告の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審とも、第一審原告の負担とする。

事実
第一  当事者の求めた裁判

一  第一審原告

1  原判決中第一審原告の敗訴部分を取り消す。

2  第一審被告は第一審原告に対し、金一二〇三万六九八四円及びこれに対する昭和六〇年一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

3  第一審被告の控訴を棄却する。

4  訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

5  仮執行宣言

二  第一審被告

主文と同旨

第二  当事者の主張

当事者双方の主張は、当審における次の主張を加えるほかは、原判決書の「事案の概要」欄に記載のとおりであるから、これを引用する。

一  第一審原告

仮に第一審原告が慢性気管支炎に罹患したことが認められないとしても、第一審原告はカビキラーの使用により、(複合)化学物質過敏症に罹患したことを主張する。

化学物質過敏症とは、ある化学物質に大量に曝され、または反復して曝されることによって引き起こされる症状が、その後は同種の微量の化学物質に曝されることによっても引き起こされることとなる慢性的健康被害の一種である(ある化学物質に曝されることによって引き起こされた症状が、別の微量の化学物質に曝されることによっても引き起こされることがあり、複合または多重化学物質過敏症といわれている。)。

第一審原告は、カビキラーのミストを吸入した直後の咳、痰、咽頭部の灼熱感などの被害から、化学物質過敏症というさらに慢性化した健康被害をこうむった。


化学物質過敏症は、本件カビキラーの製造、販売当時第一審被告には予見可能であった。

すなわち、アメリカ合衆国においては、後日化学物質過敏症と名付けられた疾患について、一九四五年頃からランドルフ教授らにより紹介されていたが、一九七三年頃には、アメリカの学会においては化学物質過敏症という疾患が存在することは一般に知られていた。

第一審被告の親会社であるS・Cジョンソン・アンド・サン・インクは、アメリカに本社を置く会社であるから、化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であり、同社の子会社である第一審被告も化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であった。

仮に、第一審被告が親会社を通じて化学物質過敏症のことを知っていたか又は知ることが可能であったといえないとしても、カビキラーは、もともと人の身体に有害な毒性を有する次亜塩素酸ナトリウム等の化学物質を含有するものであり、これらの物質はしばしば人体に被害を引き起こしてきたものであるから、その製造・販売にあたっては、最高水準の調査、研究をすることによって万が一にも人体に被害を及ぼさないようにし、もし人体に無害であることは確実でないと疑われる場合は販売しないなどして、人体の被害の発生を予防・回避する義務を有していた。

その義務の一貫として、アメリカ合衆国をはじめとする諸外国の文献や医学会の研究発表等を調査する義務があった。

次亜塩素酸ナトリウム溶液は、強アルカリであり、生体腐食性を有しており、本件カビキラーの製造・販売当時、すでにアメリカ連邦危険物標示法によると、次亜塩素酸ナトリウムを主体とする製剤には警告表示が義務づけられていた(甲第一号証)。

また水酸化ナトリウムは、生体組織に対して腐食作用があり、その原体及びそれを五パーセントを超えて含有する洗浄剤は、劇性を有するものとして毒物及び劇物取締法により、劇物としてその取扱が規制されていたものである(甲第二号証)。

したがって、第一審被告としては、右義務を尽くしていれば、アメリカ合衆国の医学界においては化学物質過敏症と名付けられた疾患が一般化していることは容易に知り得たはずであり、第一審被告は、化学物質過敏症を予見することは十分可能であった。