◆突然の「違和感」
帯広市内の会社に勤める女性は(51)は今年2月にCSを発症した。
職場で勤務中、後ろを通った人から突然に感じた違和感。
芳香剤の香りが薬品のような「吸ってはいけない」臭いに感じた。
その日を境に頭痛や吐き気、鼻の奥の痛みが襲った。
普通に生活するだけでも動悸(どうき)が収まらず、のどが押されるように苦しかった。
息が止まりそうな危険を感じた。
それを機に自宅で使っていた柔軟剤をやめ、天然材料の石けんに切り替えた。
これまで着ていた衣服も「臭い」と感じ、捨てざるをえなくなった。
どうしても捨てられない衣服は何度も洗ったが、化学物質の違和感は残ったまま。
体に合いそうな洗剤や化粧品を購入しては「駄目だった」の繰り返しだった。
自然系素材を使った製品は安心だが、比較的高価で出費がかさんでいる。
◆「あなた臭い」とは言えない
知人だった照美さんのアドバイスを受け、職場でCSを打ち明けた。
「周りの人に協力してもらわなければ症状改善はできない」。
まずは知ってもらうことが重要と考えている。
社内のメールなどで周知してもらったことで、変化の兆しも感じている。
打ち明けたことで「洗剤を変えると言ってくれた人もいた」という。
CSはまだ認知度が低く、正しく理解している人はほとんどいない。
香水や芳香付き洗剤や柔軟剤だけでなく、化学物質全般が症状に影響する。
症状を訴えている女性は、ほぼ全ての人が「臭い」と感じ取るという。
苦しい症状を抱えながらも、「回りの人に『あなた臭い』とは言えない」と複雑な心境を明かす。
日本消費者連盟発行の啓発ポスター
◆半数以上が体調不良を経験
全国的にCSは社会問題といってもいいほどの拡大をみせている。
無添加せっけんを製造販売する「シャボン玉石けん」(福岡県北九州市)の調査では、人工的な香りを嗅いで不快に感じる人の割合は84パーセント、頭痛やめまいなどの体調不良を起こしたことのある人は59パーセントにも上る。
「香害」という言葉を使い、啓発講演も行っている。
近年は無添加製品への需要も高まりつつあるという。
帯広市消費生活アドバイスセンターによると、18年から今までに寄せられたCSの問い合わせ件数は2件で、いずれも「他人の柔軟剤による体調不良」の相談だった。
センター長の寺嶋義信さんは「全国的には相談件数は増えていると聞いている」と話すが、「柔軟剤とCSの因果関係が明確になっておらず、国も対応できていないのが現状」と話す。
照美さんは「多くの人がCSに関心を持って勉強していってほしい」と話す。
「これ以上新たな被害者を増やさないためにも、公共施設などで化学物質の飛散防止対策を講じてほしい」と訴えている。
<化学物質過敏症(CS)>
柔軟剤や化粧品に含まれる香料など、化学物質が原因で体調不良を引き起こす症状。
ひどくなると微量の化学物質でも体に変調をきたし、頭痛やめまい、吐き気などさまざまな症状を引き起こす。
発症には個人差があり、同じ環境にいても発症する人としない人がいる。