5:2011年から2015年に大阪地区で採取したハウスダスト中殺虫剤濃度 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3.5 S-421(8塩化ジプロピルエーテル)
S-421の検出率はTable2に示すこれまでの調査では100%であり,今回においても90%以上であった。

しかし,最高値は0.54・g/g,平均値は0.057・g/gと1995年や2001年調査より1桁低い値となった。S-421の汚染源はいたるところに存在するが,汚染濃度は低下している。
S-421は主にピレスロイド剤の効力増強剤として使用されると共に,それ自体にも殺虫効力があるため,1990年代にはシロアリ防除剤,殺虫剤スプレーや電気掃除機の集塵用防虫紙パック等の家庭用品に広く使用された。

現在日本での生産はなくなり,使用量も減少しているが,シロアリ防除剤として登録されているものもある。

物理化学的に安定であるため,使用されたものが室内に残留していると考えられる。今回の測定において0.080・g/g以上検出された家屋は12例あるが,そのうちの8例においてシロアリ防除処理を行っており,室内に残留するS-421の汚染源の1つはシロアリ防除処理と考えられる。

S-421は変異原性があり21),母乳22)や世界中の魚介類23)から検出される蓄積性有機塩素剤である。

近年では,シックハウス症候群発症における粘膜(目,鼻,喉,呼吸器)症状への関与24),そして,母体血液中においてppbレベルの低濃度でもエピジェネティックな遺伝子発現毒性を示す25)など,新しい毒性が報告され,現状においても乳幼児に遺伝子発現阻害が生じる可能性が示された。

汚染実態の継続調査が必要である。
3.6 パラジクロロベンゼン
パラジクロロベンゼンは,1995年及び2001年採取の全家屋のハウスダストから検出されていた(Table2)。

今回調査の2013~2015年採取のハウスダストからの検出率は約80%であったが,最高値9.6・g/g,平均値0.62・g/gとも,1995年及び2001年調査より高い値を示した。

1・g/gを超えた家屋は1995年で2例(1.14・g/g,1.25・g/g)9),2001年では1例(2.07・g/g)10)に対し,今回は2例検出され,これまでの約4倍高い値(7.0・g/g;2013,9.6・g/g;2015)であった。
2001年調査の家庭(2.07・g/g)では,人形の防虫剤としてパラジクロロベンゼンを多く使用しているとの回答10)であった。

多種類の防虫剤が市販される中で,古く(1958年販売)からあるパラジクロロベンゼンを使い慣れている居住者も存在するようである。
パラジクロロベンゼンは2000年頃には住宅室内空気中に高濃度に検出されるVOCsの1つ26)であったため,室内空気中濃度指針値(240・g/m3)が設定された。

パラジクロロベンゼンの室内汚染は,居住者の関与するものが多いと考えられ,たんす,引き出しなど季節の変わり目で,閉鎖系で使用される場合が多く,たんすを開けた場合の一時的高濃度空気汚染はあるものの,シロアリ防除剤処理のような数年にわたる常時の室内汚染13)は起きにくいものと考えられた。

高濃度で検出された家屋では,パラジクロロベンゼンを居住者の衣類用防虫剤として使用する場合より,人形衣類の防虫剤等27)の室内空気に漏出しやすい方法で使用しているものと考えられるが,これらのことは,室内濃度指針値の設定が一般家庭には浸透していないことを示すと考えられる。
4.おわりに
ハウスダストによる汚染物質の摂取は,公衆衛生上の大きな課題2)であり,ハウスダストが吸着する室内空気中有害化学物質に対し,濃度指針値を設定する等の対策が行われている。

室内化学物質,特に殺虫剤や難燃剤由来のSVOCの居住者への汚染に関しては,シロアリ防除,燻煙,スプレー等,居住者が意図的に関与するものの他,建具,家具,内装材などの居住者の知らないうちに使用されているものがある。
今回,ハウスダスト中の6種類の殺虫剤等の経年変化について調査したところ,クロルピリホス,ダイアジノン,フェニトロチオン及びS-421の室内濃度については減少傾向がみられたが,ペルメトリンとパラジクロロベンゼンの汚染レベルは依然として維持されていることがわかった。
殺虫剤のヒトへの毒性に関しては,殺虫剤が開発された時点での毒性情報を起点として,神経毒性,細胞毒性,遺伝毒性のように研究が進むほどに新たな知見が報告されており,低濃度でも曝露による生体への影響が危惧される。
近年では,殺虫剤以外に,ハウスダスト中のフタル酸エステルやリン酸トリエステルに対する居住者の曝露が問題28-30)となってきた。

難燃剤のリン酸トリエステルは有機リン系殺虫剤と同様にアセチルコリンエステラーゼを阻害するが,リン酸トリエステルを吸着しているハウスダストにもアセチルコリンエステラーゼ阻害活性が認められた31)。

室内において居住者の関知しない部分から発生する化学物質による健康被害の防止のために,換気,掃除などの居住者自ら行う対策に加え,発生源対策に関する調査研究が重要と考える。