・3.3 フェニトロチオン
2011年以降のハウスダスト中フェニトロチオンの検出頻度は41/69と約6割の家庭から検出された。最高値は0.29・g/g,平均値は0.019・g/g,中央値は0.010・g/gと低レベルの汚染であり,0.1・g/gを超えるものは2014年調査の2例のみであった。2015年採取の試料からは1例のみの検出であった。
Table2に示すように1980年の河野と立川による調査では,全7検体から最大値1.9・g/g,平均値0.78・g/gのフェニトロチオンが検出されていたが,1995年や2001年採取のハウスダストでは,最大値0.33,0.38・g/g,平均値0.05,0.04・g/gと検出濃度が1桁低下した。今回の調査では検出頻度はこれまでとほぼ同じものの,平均値は0.019・g/gとさらに低下し,フェニトロチオンの室内汚染も減少していると考えられた。現在でも,日本では室内用や園芸用の殺虫剤スプレーにフェニトロチオンが市販されているが,殺虫剤の種類が有機リン系からピレスロイド系やネオニコチノイド系に移行していると考えられる。フェニトロチオンの汚染濃度は低レベルとなっているが,検出頻度からみてその発生源は常に存在し,室内汚染は継続していくものと考えられた。
3.4 ペルメトリン
ペルメトリンは2013~2015年に収集したハウスダスト36例を分析した。
測定結果では,検出頻度(31/36)は高く,最高値(13・g/g),平均値(1.7・g/g),中央値(0.36・g/g)とも分析した6種の薬剤の中で最高濃度であった。
最高値13・g/gが検出された家屋では,2011年にシロアリ防除を行ったとのことであった。
残効性の高いペルメトリンはシロアリ防除剤,殺虫剤エアロゾルスプレーや燻蒸剤として市販されており,多くの家庭において使用頻度が高いと考えられる。
シロアリ防除剤や燻煙剤の使用によって,長期間の室内曝露が考えられる。
ペルメトリンの汚染レベルは,1995年と2001年調査では,1984年の宇野らの調査時期より室内汚染が進行していた(Table2)。
今回の調査においても検出頻度は高く,広範囲な室内汚染状況は継続していると考えられたが,最高値13・g/g,平均値1.7・g/g,中央値0.36・g/gからは,ペルメトリンの室内汚染は低下傾向にあるといえよう。
ペルメトリンの室内空気中指針値は設定されていないが,加熱蒸散剤による直接曝露は動物実験において生殖臓器などへの悪影響が報告16)されており,燻煙剤の使用後は十分な換気が必要である。
ピレスロイド剤はヒトへの毒性が低いとされ,神経毒性が危惧された有機リン剤に変わって多く使用されてきたが,近年,低レベルによる多くの毒性が報告17)され出した。
乳幼児の神経活動依存的遺伝子発現阻害18),ヒト赤血球やリンパ球での細胞毒性・遺伝毒性19),また,ヒト幹細胞を用いた遺伝毒性20)が報告されている。
今回,ペルメトリン汚染が高濃度で認められたことは,今後も調査が必要であることを示す。
神経毒性や遺伝毒性の研究が進むことにより,ペルメトリンやピレスロイド系殺虫剤の使用規制が進むものと考えられる。