・3.結果及び考察
2011年から2015年に分析したハウスダスト中殺虫剤濃度をTable1に示した。
これまでの調査結果と今回の調査結果を比較して,検出頻度,平均値及び検出濃度範囲をTable2に示した。
前回同様,平均値の算出において,検出限界値は0として計算した。
3.1 クロルピリホス
2011年から2015年までの全69例において,クロルピリホスの検出数は24例であり,検出率は35%と1995年調査(検出率53%)や2001年調査(検出率84%)に比べて低下した。
最高値も2011年から2015年までの順に0.11,0.13,0.48,0.32,0.039・g/gと1995年の5.14・g/g,2001年の20.4・g/gに比べ大きく減少した。
日本において,クロルピリホスは有機塩素系殺虫剤クロルデンの禁止(1986年9月)後のシロアリ防除剤として多く使用されてきた。
クロルピリホスは低用量でも新生児の脳発達に影響を及ぼし11),米国環境保護庁(EPA)は1日摂取量のガイドラインをこれまでの10分の1に(幼児等に対し0.03・g/kg体重/日)小さく12)した。厚生労働省(当時の厚生省)は,シックハウス症候群の原因物質として,室内空気中濃度指針値を設定(2000年12月)し,建築基準法が改正され,2003年7月以降には,居室を有する建物へのクロルピリホスの使用が禁止された。
前回調査の時期は家屋への使用が禁止される前であり,特異的に汚染が認められる一戸建て住宅があった。
クロルピリホスが高濃度で検出された家屋では,防蟻処理が行われていたことが確認された。
一度クロルピリホスでシロアリ防除処理を行うと,10年以上にわたり,室内からクロルピリホスが検出されると考えられる13)が,今回のハウスダスト調査においてクロルピリホスが0.1・g/g以上の汚染が見られた家屋では,No.6(0.11・g/g)が2002年に,No.16(0.13・g/g)が2003年,No.27(0.25・g/g)が1997年に防除が行われたと回答されており,いずれも2003年以前の防除処理であった。
今回の調査結果からみて,日本におけるクロルピリホスの家屋内汚染はさらに低レベルになると考えられる。
3.2 ダイアジノン
ダイアジノンは米国では家庭用に多く用いられるため,高濃度の居住者汚染が報告され14),米国EPAはダイアジノンの家屋や庭,芝生への散布を禁止した15)。
日本でもシックハウス症候群の原因物質として,室内空気中濃度指針値が0.29・g/m3と設定された。今回の調査では,分析した69例からダイアジノンは検出されなかった。
前回調査においても,1995年で15例中2例,2001年では32例中7例と検出数も少なく,検出濃度も最高値0.02・g/gと低かった。
日本の一般家庭では,ダイアジノンの室内汚染はほとんどないと考えられる。