4.4 短期曝露と疾患の関係
高濃度のPM2.5への短期曝露により,呼吸器疾患や循環器疾患による医療機関への救急受診・入院が増加するという報告は多数ある。
微小粒子状物質環境基準専門委員会6)では,北米,欧州,中南米,オセアニアの研究報告を総括し,全体的に正の関係があると述べている。
ただし,疾患毎には標本数が少ないため結論づけることは困難であるとしている。
1)呼吸器疾患
呼吸器疾患(喘息,慢性閉塞性肺疾患等)の患者を対象にした研究では,PM2.5濃度の上昇に伴い,一日当たりの咳,痰,呼吸困難,喘鳴などの呼吸器症状の出現と気管支拡張剤の使用増加50),肺機能の低下35)が認められている。
しかしながら,健常者を対象にした研究では,一貫した関連性は認められていない。
わが国では,喘息による夜間急病診療所の受診者を対象に,PM2.5濃度と喘息受診者の関連性が検討されたが,有意な関係は見いだされなかった51)。
2)循環器疾患
欧米諸国の研究では,PM2.5への短期的な曝露により,循環器系疾患(虚血性心疾患,うっ血性心不全)による救急受診・入院の増加,脳卒中の発症との関連が認められている。
またPM2.5濃度の上昇により,心拍数の増加,心拍変動の低下,安静時の血圧の上昇,不整脈の発生,血液生化学指標の変化が生じると報告されている35,36)。
これらのエビデンスは,PM2.5の長期曝露による循環器疾患の発症や死亡の発生メカニズムに関する根拠を提供している。
わが国では,鴨打ら(2013)52)が中国大陸から黄砂が飛来した後,アテローム血栓性脳梗塞の増加が認められると報告しているが,長期曝露影響と同様,PM2.5曝露と循環器疾患の有意な増加を示唆する研究報告はほとんどない。
3)生殖・発達
PM2.5曝露による妊娠中の胎児,新生児への影響に関して影響を示唆する報告はあるが,一貫した関連性は認められていない。
4.5 粒径・化学組成との関連
米国を中心とする疫学研究において,PM10-2.5とPM2.5の相対的な重要性を検討したものがいくつかあり,必ずしも一貫した結果とはなっていないが,短期曝露,長期曝露共にPM2.5よりもPM10-2.5の方が重要であるとする報告はない。
一方,短期曝露研究において,Schwartzetal.(1996)53)は米国6都市において大気中硫酸塩濃度と日死亡の間に有意な関連があると報告し,その後の再解析でも同様の結果が得られたと報告している54)。
Burnettetal.(2000)55)は,カナダ8都市において大気中の硫酸塩,鉄,ニッケルおよび亜鉛が短期の死亡に関連し,4成分を合計した濃度の方がPM2.5濃度よりも大きな影響を示したと報告している。長期曝露については,ハーバード6都市研究,ACS研究,AHSMOG研究において,硫酸塩濃度と死亡の関連が示されている。
但し,硫酸塩の影響については,PM2.5濃度に比べて疫学研究の質・量ともに限られており,さらにデータの蓄積が待たれる。
4.6 PM2.5の曝露と健康影響の因果関係
U.S.EPA(2009)35)では,毒性学的知見および疫学的知見を総合して,PM2.5の曝露と健康影響について総括した。一方,わが国の環境省でも,粒子状物質による健康影響の関係を評価した38,56,57)。両国の評価を表3に比較して示す。
米国と日本では,PM2.5による健康影響について一部異なる評価となっている。この主な理由として,次の2点が挙げられる。
①PM2.5は粒子の粒径で定義したものに過ぎず,発生源からの影響の度合いによって化学成分が異なる(但し,どの化学成分が健康影響に関係するかは特定されていない)。
②ヒトへの健康影響を評価する場合,国や地域による疾病構造やライフスタイルが関連する可能性がある。
したがって,WHOでは各国の状況を踏まえて対策を行うべきであるとしており58),米国では米国とカナダの疫学研究を重視して大気環境基準を策定している。
すなわちPM2.5のヒトへの健康影響を評価する場合には,その濃度レベルの大小関係だけでなく,PM2.5の物性(発生源,化学組成等),曝露の状況(生活様式,住居構造等に関係),体の状態(疾病構造,身体・生理状態)なども考慮する必要があり,PM2.5に関する地域研究をより充実させる必要がある(図4)。
runより:復帰しました(´・ω・`)
途中だった記事再開ですが長いんですわ。
もう少々お付き合いください((。´・ω・)。´_ _))ペコ