2:室内環境指標としての総揮発性有機化合物(TVOC) | 化学物質過敏症 runのブログ

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・3.1 ガスクロマトグラフ法
室内環境では1mg/m3以下の低濃度VOCが測定対象になる場合が多い14)ので,VOC測定のサンプリングでは試料空気を多孔性高分子(Tenax,Carbotrap,Carbocieve)20,21)あるいは活性炭22)を通してポンプ吸引してVOCを吸着捕集し濃縮する。

VOCのサンプリングにはポンプサンプリングとパッシブサンプリングが用いられるが,TVOCには通常ポンプサンプリングのみが用いられる23)。

パッシブサンプラーでは未同定VOCをトルエン換算しても,取り込み速度(サンプリング係数)を選べないためで,大部分のVOCが同定され,かつその取り込み速度が分っている場合にはパッシブサンプラーも用いることができる。

捕集後それぞれ加熱脱離あるいは溶媒抽出されたVOCがガスクロマトグラフで分離定量され,得られたクロマトグラムからVOC成分を定量するときにTVOCも算出されるが,TVOCはVOCの同定率(クロマトグラムにおいて同定されたVOCのピーク面積の全ピーク面積に対する割合)のほかに3つの因子が測定値に影響を与える可能性がある14)。

吸着剤の捕集保持率24),溶媒の抽出能力25),ガスクロマトグラフの検出器の特性14,26)の影響を受ける。

同定率は高濃度成分が同定されれば高くなるが,厚生労働省の居住環境調査(標準物質46成分)の同定率は約50%,その後のTVOC測定のための保持指標の導入を目指した検討で70成分の標準物質で80%以上になった27)。

活性炭でのサンプリング操作はTenaxより使いやすい14)が,一部のVOCに抽出率90%以下のものがあり25),Tenaxより低めの値をとる可能性がある28)。

検出器として質量分析計(全イオン電流)やFID(水素炎イオン化検出器)が用いられることが多いが,感度(単位濃度あたりのイオン電流値)はVOCの種類によって異なる。

質量分析計で未同定成分が多い場合やトルエン換算の場合,トルエンと感度の異なる成分が多ければ同定率の高いTVOCとの差が大きくなる29)。

一方,感度がほぼVOCの炭素数に比例するFIDでは質量分析計に比較して精度は高い14)。
吸着カラムを用いてVOCを大気中に共存するメタン(約1.3mg/m3)やブタンなどのVVOCと弁別,濃縮し,FIDを検出器としてVOCの総量を計測する濃度計も用いられる15)。
3.2 簡易法
簡易法とは直接TVOC値が指示される方法で,現場で迅速かつ簡便に測定できるので,現場測定法とも呼ばれる。実用されている主な検出原理とその特徴を表3に示す。

VOCに対する感度特性は検出原理によって異なるが,同じ原理でもVOCの種類によってもかなり異なるので相対濃度計である。

TVOC計として近年は小型軽量なPIDと半導体法が主に用いられ,標準ガスとしては通常トルエンが用いられる14)。

このうちFIDのみは感度不足で直接測定はできない30)が,Matsumuraらによって吸着濃縮したものを加熱脱離してFIDに導入することによって適用できるようになった31)。
表3 TVOC簡易測定法に用いられている検出原理30)


一方,室内環境のVOCの組成比(濃度ではなく)は仕様,築後の時間経過,入居後の使い方(家具の持込など)によって異なるのが常で,VOCの種類によって感度の異なる簡易法はこの組成比が類似していない限りトルエン換算しても絶対濃度(mg/m3)を測るのには原理的に使えない14)。

換算係数はガスクロ分析で求めたTVOCを簡易法の指示値で除した値であるが,同一建物内の異なる時期での経時変化などこのような条件を満たす環境下では両者に良い相関がみられる32)。

実環境における換算計数を求めた例を表4に示したが,新築の間でも一致しない場合も少なくない。したがって,簡易法を用いる場合には類似の環境空気についてガスクロマトグラフ法で求めたTVOCと並行測定を行って求めた換算係数を用いる必要がある23)。
近年高感度化されたPIDの実用性についての検討事例も多い37)。

シンガポールではトルエンを標準したPIDで計ったものをTVOCとしている(表6参照)。
しかし,化合物間の感度差のほかに湿度の影響も大きいためにTenax-ガスクロマトグラフで求めたTVOCとの差が大きい38,39)。

一方,半導体法はVOC間の選択性が比較的小さいことがTVOCには幸便で,感度も高いので室内空気質モニタとして以前から検討され40,41,42,35),換気装置との連動43,44)も含めて実用されて来た。

VOC間の感度差と湿度の影響の大きい欠点に対して半導体センサと分離カラムを組み合わせたシステム42)が開発されている。一方,この二つの欠点の克服を目指したTVOC計の開発研究も行なわれている44)。
表4 簡易TVOC濃度計の換算係数の例