3:家庭用冷蔵庫内のアセトアルデヒドが室内環境におよぼす影響 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・3.結果および考察
3.1 家庭用冷蔵庫からのアセトアルデヒドの発生
速度庫内アセトアルデヒド濃度,冷蔵庫の漏気回数,冷蔵庫の容積の仮想分布より計算したアセトアルデヒドの発生速度の分布をFig.5に示す。
幾何平均と幾何標準偏差は「冷蔵庫容積の総合分布」を用いた計算で5.0・g/h(幾何標準偏差:4.3),「単身世帯冷蔵庫からの発生速度」は1.8・g/h(幾何標準偏差:3.9),「一般世帯冷蔵庫からの発生速度」は6.6・g/h(幾何標準偏差:4.0)であった。

これらの冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドの推定値を室内における他の発生源と比較した結果,室内で調理器具を使用した場合(5.1±14・g/h)や家具に使われている接着剤(2.0±9.1・g/h)からの発生速度7)と同じレベルであることがわかった。

また,「一般世帯冷蔵庫からの発生速度」は約10~14%の場合で木製家具(30±69・g/h)や喫煙(喫煙時の発生速度に対して喫煙時間から24時間に均した場合,35±130・g/h)の発生速度7)を上回るレベルであった。

さらに,「一般世帯冷蔵庫からの発生速度」は「単身世帯冷蔵庫からの発生速度」の約3.7倍となった。
3.2 室内濃度の推定結果
計算の結果,得られた室内濃度の幾何平均値は推定条件1で0.24・g/m3(幾何標準偏差:3.9),推定条件2で0.12・g/m3(幾何標準偏差:3.9),推定条件3で0.67・g/m3(幾何標準偏差:4.0)となった。一般世帯を想定した推定条件3では単身世帯を想定した推定条件1および2と比べ,それぞれの幾何平均値での比較で2.8倍,5.6倍となった。

得られた推定条件1~3におけるアセトアルデヒド濃度のヒストグラムをFig.6に示す。この結果と,におい・かおり環境協会が定める嗅覚閾値(2.7・g/m3)25)および6段階臭気強度26)とを比較した。
まず,アセトアルデヒドの嗅覚閾値との比較であるが,推定条件1~3で得られた台所もしくは室内濃度の幾何平均値はそれぞれ嗅覚閾値の8.9%,4.4%,25%に相当した。

また推定条件3において6.4%の場合で嗅覚閾値を上回る結果となった。

一方で,推定条件1および2において嗅覚閾値を上回った場合はそれぞれ3.4%,1.0%であった。

また,臭気強度2「なんのにおいかわかる弱いにおい(18・g/m3以上)」以上となる場合は全ての推定条件で0.3%以下であった。
以上のことから,家庭用冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドが台所や室内臭気に単独で寄与する割合は比較的小さいといえる。

加えて,台所には様々な臭気源が存在する27,28)ため,アセトアルデヒドの臭いがマスクされてしまう可能性も考えられる。

しかし,一方で一般世帯を想定した推定条件3では嗅覚閾値に対して25%の寄与率があることや,ばらつきが大きいことなどを考慮すると条件次第では単独で臭気源となる可能性も否定できないと考えられた。

一方,厚生労働省の定める室内濃度指針値48・g/m3との比較では,得られた台所または室内濃度の平均値は室内濃度指針値の0.25~1.4%程度であり,指針値以上となる場合は全ての推定条件とも0.02%であった。

したがって,冷蔵庫からの発生のみでは指針値への寄与率は低いと考えられた。
なお,本研究では家庭用冷蔵庫が室内における臭気や室内濃度指針値にどの程度寄与するのかを包括的に把握することを目的としたため,冷蔵庫の内容物やドアの開閉など,パラメータの細分化をしなかった。

しかし,近年は高性能の乱数発生ソフトや計算ソフトが多数存在し,著者らによる個別食品から放散する低級カルボニル化合物の挙動に関する報告があるなど,各パラメータに関する詳細なデータも増えてきている。

したがって,本研究を基礎として,今後より具体的なシミュレーティングに繋がる可能性は大いに期待できる。
4.結論
本研究により,以下のことが明らかとなった。
① 家庭用冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドは,既知の発生源として報告のある接着剤や調理器具の使用と同程度の発生速度になると推定された。
② 一般家庭を想定した場合,冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドが,室内濃度の25%に寄与しうることがわかった。

また,6.4%の一般世帯において,冷蔵庫からの発生のみで嗅覚閾値を上回る可能性があることが示された。
③ 冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドによる室内濃度の上昇は,室内濃度指針値の0.25~1.4%程度に過ぎないことがわかった。
これまでにも冷蔵庫の臭気に関する報告はあるが,その多くが食品への移り香や庫内の悪臭に焦点を当てたものであり29,30),冷蔵庫から設置空間へ発生するガスに着目した報告は調べた限りでは見つからなかった。

また,室内の臭気源や室内濃度指針値への寄与率は高いとは言えないものの,緒言で述べたように冷蔵庫の普及率9割以上と非常に高く,生活にも密接に関係していることから,撤去するなどの簡便な対策で発生源を除去することはできないという特徴を有している。

以上のことから,本研究の結果を踏まえ,家庭用冷蔵庫を単なる食品の保管場所ではなく,室内におけるアセトアルデヒドをはじめとするガス状化学物質の発生源という側面を持っていることにも焦点を当てる必要がある。