2: 家庭用冷蔵庫内のアセトアルデヒドが室内環境におよぼす影響 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・2.方法
2.1 モンテカルロ法
モンテカルロ法は,確率(乱数)を使用するシミュレーション法の総称であり,現在では自然科学の分野のみならず,金融からコンピュータ囲碁など,様々な分野に応用されている汎用性の高いシミュレーション方法である19)。

同法を行うにあたり,乱数を用いた各変数の仮想分布を用意する必要がある。

乱数を発生させるためのツールやソフトウェアは数多くある20)が,本研究では変数の数が比較的少なく計算式も複雑でないこと,簡便であり広く普及しているソフトウェアであることなどの理由により,Microsoft・社のExcel・Version15.0.5119.1000に備わっている乱数発生ツールを用いることにした。

また,家庭用冷蔵庫内のアセトアルデヒドの庫内濃度分布,家庭用冷蔵庫の漏気回数,家庭用冷蔵庫の容積などはそれぞれ著者らの実測データや経済産業省の統計があり,これらのデータをもとに乱数を発生させ,それぞれの仮想分布を作成することにした。発生させる乱数の数は文献情報20)などを参考に十分滑らかなデータを得ることができるとされる10,000個とした。
2.2 計算式
家庭用冷蔵庫から発生するアセトアルデヒドの発生速度は(1)式を用いて計算した。

ここでEAは冷蔵庫からのアセトアルデヒドの発生速度(・g/h),CAは庫内空気中のアセトアルデヒド濃度(・g/m3),NRは冷蔵庫の漏気回数(回/h),VRは冷蔵庫の容積(m3)である。
2.3 庫内のアセトアルデヒド濃度の分布
著者らは2011年7月から12月にかけて使用中の家庭用冷蔵庫25台に対し,分子拡散型パッシブ・サンプラー(シグマアルドリッチジャパン社製:DSD-DNPH)を用いたパッシブ・サンプリング法により庫内濃度の実態調査を行った17)。

この結果,庫内のアセトアルデヒド濃度は0.007~0.92mg/m3であった。

この庫内濃度の測定結果およびその対数値を用いて正規確率プロットを作成し,正規性の検討を行った。この結果,Fig.1に示す通り,測定結果は対数正規分布に従った。

測定結果の対数値の平均値は-1.1,標準偏差は0.57であったため,平均値-1.1,標準偏差0.57の正規分布に従うように乱数を10,000個発生させ,発生した各乱数で10を冪乗して得られた値を庫内のアセトアルデヒドの濃度分布とすることにした。

得られた仮想分布をFig.2に示す。
なお,著者らは同調査において,冷蔵庫の仕様や使用条件とアセトアルデヒドの庫内濃度の関連性は見いだせなかったと報告している。

したがって,庫内濃度について特に場合分けなどは行わなかった。
2.4 家庭用冷蔵庫の漏気回数の分布
著者らはCO2減衰法21)を用いて,Table1にしめす3台の家庭用冷蔵庫についてドアの開閉を行わない状態の漏気回数を測定した。

この結果,漏気回数は0.18~0.24回/hであった。

冷蔵庫の漏気回数を定量的に測定したデータは調べた限りでは上記データを含む著者らの報告があるのみで,ややn数が少なかった。

しかし,市販されている家庭用冷蔵庫の構造がメーカーや容積などの違いにより著しく異なるとは考えにくいため,概ね0.2回/h前後であると推察された。
そこで,冷蔵庫の漏気回数がこの範囲であると仮定し,0.18~0.24の範囲の一様分布により乱数10,000個を発生させ,これを冷蔵庫の漏気回数の分布とした。

得られた仮想分布をFig.3に示す。
なお,ドアの開閉を行った場合の換気回数は調べた限りでは著者らの報告18)にある1台のみであった。
また,同報告におけるドアの開閉条件もJISC980122)に従った1パターンのみであり,仮想分布を作成するのが困難であったため,本稿ではドアの開閉は考慮しないことにした。
2.5 冷蔵庫容積の分布
経済産業省の発表23)によると2013年度における家庭用冷蔵庫の容量別出荷量は140L以下のものが22%,141~300L以下のものが14%,301~400L以下のものが15%,そして401L以上のものが49%であった。

そこで,各区分の容積の範囲で一様分布により乱数を10,000個発生させ,容積別出荷数の割合で合計10,000個になるように混合したものを冷蔵庫の容積の分布とした(以下,「冷蔵庫容積の総合分布」とする)。

また,140L以下,401L以上の区分においてはそれぞれ下限値と上限値を定める必要があったため,各メーカーのHPやインターネットショッピングモールなどの製品情報から判断し,下限を80L,上限を600Lとした。

なお,下限値については容積が10~30L程度のいわゆる「ミニ冷蔵庫」なども市販されているが,一般的にこれらは2台目以降の補助的な用途で使用される場合が多いと考えられたため,2ドア以上のものに絞って下限値を決定した。
また,経済産業省によると近年は大型の冷蔵庫の需要が増える一方,140L以下の小型冷蔵庫は,依然として学生や単身世帯向けに根強い需要があるとされている23,24)。

そこで「冷蔵庫容積の総合分布」その他に,80~140Lの一様分布で乱数を10,000個発生させたものを単身世帯向け小型冷蔵庫の容積分布(以下,「単身世帯向け冷蔵庫容積分布」とする),141~300L,301~400L,401~600Lの各区分で乱数を10,000個発生させ,それを14:15:49の比率で合計10,000個になるように混合したものを二人以上で構成される世帯(以下,「一般世帯」とする)向け大型冷蔵庫の容積分布(以下,「一般世帯向け冷蔵庫容積分布」とする)として用意した。得られた仮想分布をFig.4に示す。

なお,「単身世帯向け冷蔵庫容積分布」を用いて計算したアセトアルデヒドの発生速度を以下「単身世帯冷蔵庫からの発生速度」,「一般世帯向け冷蔵庫容積分布」を用いて計算した発生速度を以下「一般世帯冷蔵庫からの発生速度」とする。
2.6 室内濃度への影響の検討
冷蔵庫から発生したアセトアルデヒドが台所や居室内で完全混合されたと仮定したときの台所または室内濃度を(2)式により計算した。

ここでCは台所または居室内のアセトアルデヒド濃度(・g/m3),EAは冷蔵庫からのアセトアルデヒドの発生速度(・g/h),Nは台所または居室の換気回数(0.50回/h),Vは空間の容積である。
台所および居室は専有面積や天井の高さなどの幅が広く,乱数発生による仮想分布の作成が困難であったため,本稿では単身世帯を想定した「1Kの台所(台所と居室はドアで隔てられている):容積15m3」および「1Rの部屋(台所と居室は隔てられていない):容積30m3」,一般世帯を想定して「LDKの部屋:容積40m3」の3つの場合に絞って検討することにした。
なお,台所については換気扇を稼働すると換気回数は0.5回/hと大きくなる場合も考えられたが,本稿では他の条件との比較を容易にするため,換気扇の稼働は考慮しないで推定を行った。

また,単身世帯を想定した台所および居室にはEAに「単身世帯冷蔵庫からの発生速度」を,一般世帯を想定した居室にはEAに「一般世帯冷蔵庫からの発生速度」をそれぞれ用いた。

それぞれの推定条件を推定条件1~3としてTable2にまとめる。