出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
・薬剤耐性菌問題―解決のポイントは家畜への抗菌剤使用の削減
事務局・ジャーナリスト 植田武智
人や家畜への過剰な抗菌剤使用により、抗菌剤が効かない病原菌が発生してしまう薬物耐性菌問題。病気や治療で抵抗力の弱った患者にとっては、健康な人ならば問題にならない細菌によって感染症になる可能性がある。
その時感染症治療に有効なのが抗生物質などの抗菌剤なのだが、近年あらゆる抗菌剤が効かない耐性菌(多剤耐性菌)が発生し、院内感染が深刻な問題となってきた。
2050年には年間100万人が死亡する
既存の抗菌剤が効かなくなったのであれば、新しい抗菌剤を開発すればよさそうなものだが、今や製薬会社は、高血圧、高脂血症、糖尿病などの生活習慣病の治療薬に向いている。
感染症の抗菌薬は、これらの治療薬に比べ投与期間が短いため、製薬会社の利益につながらないからだ。
新しい抗菌薬が増えない状況で、使えない抗菌剤が増えていき、最終的にはどの抗菌剤も効かない病原菌が発生したら、治療できなくなってしまう。
この薬剤耐性菌問題は、日本では病院内での感染が発生した時くらいしか報道されないが、アメリカでは国の調査で毎年200万人以上が罹患し2万3000人以上が死亡していると報告されている。
また2014年にイギリス政府の下で、著名な経済学者ジム・オニール氏がまとめた報告書(オニールレポート)では、このまま対策を取らないと、2050年には耐性菌の感染症による死亡者数が年間1000万人に達し、ガンによる死亡者数(820万人)を超え、その経済的損失は、2050年までに100兆ドル(≒1.2京円)にもなると予想されている。
世界保健機関(WHO)は、世界の公衆衛生の最大の脅威として、2015年に世界行動計画を採択。
日本でも翌2016年に「薬剤耐性対策アクションプラン」が閣議決定され対策が進められている。
多剤耐性菌が発生する原因は、抗菌剤の乱用にある。
そもそも風邪の原因はウイルスで抗菌剤は効かないのに処方されるなど、医薬品として抗菌剤も濫用されている。
日本の「薬剤耐性対策アクションプラン」では、2020年までに33%削減するという目標を立てている。
ただ、日本全体の抗菌剤の使用量の内、人間の治療用の医薬品に使われるのは3割程度に過ぎない。
家畜に使用される方が6割とずっと多く、残りの1割は農薬として使用されている(図1)。