・薬疹患者の重症度を判定するための重要なチェックポイント
前述した代表的な重症薬疹であるSJSTEN を念頭において薬疹患者の重症度を判定するための重要なチェックポイントを実用的な視点から挙げる.
第1 に,皮疹の範囲が広くて進行速度が速く,皮疹の自覚症状は痒みより痛い方が,そして表皮の壊死性病変を示す水疱・びらん・表皮剝離の範囲が広いほど重症である.
第2 に,口唇粘膜,口腔粘膜,結膜,外陰部,肛囲の粘膜疹の範囲が広くその障害度が高度であるほど重症である.
第3 に,全身症状は,高熱があり,呼吸障害(気道粘膜障害)が高度であるほど重症である.
第4 に,緊急検査では,末梢血における白血球増多又は減少や肝機能検査異常が高度であるほど重症である.異型リンパ球の顕著な増多が見られる場合,HHV-6 のような潜伏していたHHV の再活性化を併発していることがあるので,注意を要する.また線溶系の亢進を示すFDP-D-dimer はSJSTEN では症状の進展に伴い上昇する傾向があるため,その上昇はSJSTEN における病勢の指標となることが期待される.
第5 に,緊急生検を実施し,凍結切片を用いた迅速病理診断により表皮のextensive apoptosis を確認することは,皮膚障害度(重症度)を組織的に評価し,SJSTENの早期診断に有用である.第6 に,ウイルス血症や敗血症・菌血症(グラム陰性桿菌・黄色ブ菌・真菌)の併発例は予後不良のことが多いので,注意を要する.
実際,SJSTEN やDIHS の場合,ステロイドパルスが必要になることが多く,それだけウイルス血症や敗血症・菌血症を併発する頻度が高いため注意が必要である.
SJSTEN の病態・機序
SJS は,発症病因においてマイコプラスマ感染やウイルス感染の占める比率が比較的高く,特異な壊死性病変が皮膚粘膜以降部に必発するなどの特徴があるが,皮膚病変が進展して水疱・びらん等の表皮剝離病変が体表面積の10% を越えれば,TEN となり原因薬剤も同系統のものが多いことから,両者の基本病態は同じであると考えられている2)3)5)19)20).
図1 に示したような所見から,SJSTEN における主なエフェクターT 細胞はCD8+のcytotoxic T(Tc)細胞であり,その病態は,主にこのCD8+Tc 細胞伝達性の細胞毒性型過敏反応(CTHR)によって誘導されると考えられる4)21)22)が,このTc 細胞の活性化には通常CD4+helper T(Th)細胞による補助が必要であるため,このCTHR には,CD4+Th 細胞伝達性の遅延型過敏反応(DTHR)の要素も併せ持ち,遅延型の皮内テスト,パッチテストや薬剤リンパ球刺激試験が陽性反応を示し易いと考えられる.
SJSTEN では表皮の壊死性変化が強く,組織学的に皮膚Graft-versus-Host disease(GVHD)に特徴的な組織所見である表皮角化細胞のapoptosis による好酸性壊死やsatelite necrosis と表皮内ランゲルハンス細胞の著減ないし消失といった所見が認められる23).
その際,角化細胞では,MHC クラスII 抗原や細胞間接着分子と共にapoptosis の受容体分子であるFas 抗原の顕著な発現が見られる.
またperforin,granzyme,TNFα および可溶性FasL(sFasL)のmRNA が水疱液や末梢血単核細胞中より検出され,原因薬剤で刺激された末梢血単核細胞は多量のsFasL を産生遊離することが判明している24)―26).
従って,SJSTEN では,CD8+Tc 細胞が強力に活性化される中で,perforin,granzyme,TNFα の産生分泌による表皮障害とFas-FasL による角化細胞のextensiveapoptosis により表皮の水疱・壊死・剝離が惹起されると推測される.
図2 は,SJSTEN の基本病態である表皮角化細胞のapoptotic pathway を模式的に示したものである.最近TEN のモデルマウスの研究成果からCD25+CD4+regulatory T 細胞(Treg)の関与が示唆されている27).
同じ調節系のIL-10 産生CD4+regulatory T1 細胞(Tr1)やTGFβ 産生CD4+Th3細胞(Th3),また自然免疫やvirus 感染がSJSTENの発症・病態に果たす役割の解明が望まれるが未だ不明である.