・検査
1)一般臨床検査
薬物過敏症に特徴的にみられる検査所見はないと言って良い.
白血球は増多となる場合も減少する場合もあり一定していない.
SJS やTEN などでは減少する場合が多く,DIHS では増多となる傾向がある.
しかしDIHS でも極く初期に検査すると白血球減少となる場合があり,その後増多に転じることが多い.
好酸球増多もしばしば認め,薬物過敏症を疑わせる所見とも言えるが,その頻度は必ずしも高くない.
好酸球増多が多いとされるDIHS でもせいぜい出現頻度は60~70% 程度であり,その多くは一過性で,程度も50% を越えることは殆どない.
リンパ球も白血球数に応じて増加する場合,減少する場合様々である.
リンパ球分画としてはCD4+T 細胞が増加する場合とCD8+T 細胞が増加する場合があり,薬疹に一定の傾向はない.
CD8+T 細胞が著明に増加する場合は,基盤にウイルス感染が存在することを強く疑わせるが,薬疹を否定するものではない.
CRP は薬疹でも15 程度まで上昇することがあるが,多くは5 以下である.
血清中のサイトカインではIFN-γ やIL-5 の上昇が知られているが特異的なものとは言えない.SJS やTEN では可溶性Fas L9)10)が増加しているとの報告もあるが,それが本当に本症に特異的なのか,ウイルス性疾患では認められないのかについては今後の検討が必要である.
肝障害はALT 上昇を認める場合が多いが,AST,γGTP 上昇を認めることがあり,薬物過敏症特異的なパターンはない.
リンパ球(とくにCD8+T 細胞)増加時に一致して,肝障害を認めることが比較的多いようである.
血清蛋白とくに,アルブミン,グロブリンの一過性の減少をしばしば認めるのが発症初期のDIHS である.とくにIgG の低下が著明11)であり,原因薬剤中止後2~3 週程で急速にリバウンドして回復してくることが知られている.
2)ウイルス検査
薬物過敏症の検査の2 番目にウイルス検査が来るのも妙なものだが,今や極めて重要な検査となりつつあるのでここで述べることにしたい.
DIHS ではHHV-6 の再活性化を認めることが,診断基準(表3)の一つになっているほど特異的な所見である.
IgM の上昇は認めずIgG のみの上昇なので再活性化と考えられているが,時にIgM の上昇を認めることもあり,初感染(突発性発疹)から引き続き発症したと思われる症例も報告されている.抗体価の上昇は発症2~3 週目に認めることが多いため,採血のタイミングによっては有意な上昇を確認できないこともあり得る.
抗体価上昇に先行して全血中にウイルスDNA を一過性に認める.
DIHS ではHHV-6 の再活性化のみが知られているが,それと相前後して他のヘルペス属ウイルス(EB,サイトメガロウイルス,HHV-7,水痘帯状疱疹ウイルス)の再活性化も報告されている.面白いことにこれらのウイルスは,graft-vs.-host disease(GVHD)の際に認められるのと同じ順序で再活性化してくる12).
薬剤投与を中止してもこのようなウイルス再活性化の連鎖が起こるためにDIHS の経過は遷延化することになる.
EBV 感染による伝染性単核球症におけるアンピシリン疹は有名であるが,当初報告されたのとは異なり,EBV 初感染患者にペニシリン系薬剤を投与すると100% に薬疹を認めることはなさそうである.
著明なリンパ球増多(とくに異型リンパ球)があり,高熱とリンパ節腫脹を認めた場合にはEBV 抗体価のチェックが必要である.
ウイルスではないが,SJS はしばしばマイコプラズマ感染に引き続き発症することが知られており,肺症状出現後に粘膜症状を伴って全身の紅斑を認めた場合にはマイコプラズマの検査を行うべきである.
単純疱疹ウイルス(HSV)の再活性化も,しばしば多形紅斑型の薬疹やSJS に伴って認められるので,行うべき検査の一つである.
3)薬剤特異的in vivo 検査
これまで述べたのは全て原因薬剤を特定出来る検査法ではない.原因薬剤を特定するには様々な方法があるが,そのうちin vivo 検査の多くは皮疹の発症時には行い難く,多くは皮疹軽快後に原因薬剤の確定のために行われる.
即時型アレルギーの検査のためにはプリックテスト,スクラッチテストと皮内テストが行われる.注射薬がある場合には皮内テストの方が感度良く確実なため行われるが,ない場合にはスクラッチした上に内服薬剤をすりつぶして生理食塩水を滴下するスクラッチテスト,さらにその上に絆創膏を貼布するスクラッチパッチテストも行われる.
いずれの方法でも陰性コントロール(生食)と,薬剤に感作されていない正常人コントロールを用意して,それとの比較で結果を判定すべきである.皮内テストは確実だが,テストのみでアナフィラキシーを起こす危険があり点滴ルートは確保した上で行うべきである.
用いる薬剤の濃度は薬疹の重症度に応じて異なるが,通常量の11000~1100から行うことが望ましい.
.抗生剤の皮内テストはアナフィラキシーを起こす危険もあり,ルーチンに行うのは無用とする意見がある.
しかし,診断的価値はあり症例によっては積極的に行うべきであろう.
薬剤によっては抗ヒスタミン剤のように皮内テストすると正常人でも陽性に出てしまうものがあり,判定はあくまでコントロールとの比較の上で行うのが望ましい.
薬疹の場合に主として行われるのはパッチテストである.
この方法は広く行われている反面,問題点もある.その最大のものは感作してしまう危険性である.
これは用いる薬剤の使用濃度が高い程起こりやすい.
30~50% 程度の濃度で行った方が,高い陽性率が得られるとの意見もあるが,それだけ感作を強めてしまう危険もあり10% 程度とすべきである.
パッチテストはなるべく皮疹の出現した部位で行うことが望ましく,固定薬疹の場合は病変部のみで陽性となる13)ことが知られている.
原則として薬剤の代謝産物が原因となっている場合にはこの方法では陽性となりにくい.
以上の様々な制約があるため,パッチテストが陰性だったとしても原因薬である可能性を否定したことにはならない.