発症機序
多岐にわたる薬物過敏症の発症機序を教科書的に述べるのは極めて難しい.現在までに最も解明の進んでいるのが薬疹,とくにT 細胞を中心とした機序であり,それを中心に述べることにする.それが最も単純な形で認められるのが固定薬疹であるため,まずこの機序について述べてみることにする.
固定薬疹の病変部は原因薬を内服していない時には,淡い円形~楕円形の色素沈着のみである.
原因薬を内服後数時間ほどで同部に一致して発赤と灼熱感を認め,時に水疱となる.
内服を続けると発赤は色素沈着部を越えて拡大し,正常部にも多発するようになる.
何故病変部のみに発赤を生ずるかというと,病変部表皮基底層には薬剤に反応するT 細胞が多数存在する4)からである.
筆者らは,このT 細胞について解析を行った結果,これが極めて均一な細胞集団であるこ表3 Drug-induced hypersensitivity syndrome:DIHSとが明らかになった.
表面形質はCD3+8+45RA+27-,CLA+,αEβ7+のeffector-memory タイプのT細胞で,原因薬剤の投与により活性化されinterferonγ(IFN-γ)を産生し,まわりの細胞を傷害する.
傷害に関与する分子としては,IFN-γ の他,granzyme B,perforin,Fas L なども示唆されている.
いずれにせよ,この病変部表皮に常在するCD8+T 細胞が最終的なエフェクターT 細胞であることは確実である.
固定薬疹の病変部では,このCD8+T 細胞を中心とした表皮ケラチノサイトのアポトーシスが,主に基底層を中心として認められる.
重篤になれば表皮は全層性の壊死となる.この病理所見自体は最重症の薬疹であるTENやSJS も同様であり,固定薬疹はこれら最重症薬疹のlocalized form と言えよう.
つまり,他の薬疹ではこのようなエフェクターT 細胞が表皮に常在しているのではなく,血管内から皮膚へ浸潤してくると考えられている.
それではこのようなエフェクターT 細胞は薬剤抗原をどのように認識しているのだろうか?
これについては古典的な説に基づけば,自己MHC の溝の中のペプチドに薬剤抗原が結合し,T 細胞はそれを認識するということになる.
しかし,薬剤抗原がMHC そのものに結合している可能性などもあり,結論は出ていない.
カルバマゼピンによるSJS がHLA-B*1502 を持つ患者にのみ発症した5)とする台湾からのデータは,エフェクターT 細胞が薬剤抗原を自己MHC とともに認識している可能性を強く示唆する.
しかしその後の我が国やヨーロッパからのデータは,必ずしも台湾からの報告を支持するものではない.
問題をさらに複雑にするのは,DIHS において特徴的に認められるHHV-6 の再活性化の関与である.
これを含めDIHS において認められる様々な所見は,T細胞が薬剤抗原をMHC とともに認識し活性化されることにより皮膚病変を生ずる,という単純なstory では説明できない.
何故DIHS においてだけ潜伏ウイルスの再活性化が,発症から2~3 週目という決まったポイントで起こるのか?
通常の薬疹では感作が起こる1~2 週目に発症するのに,何故DIHS では長期間の内服の後に発症するのか?
何故原因薬剤をやめてもDIHS は著明な増悪を認めるのか?
何故発症後に内服した薬剤(構造上交叉反応しないはずの薬剤)に対しても反応してしまうのか?
等の多くの疑問は,T細胞が薬剤抗原をMHC とともに認識することにより発症するという仮説では説明出来ないものばかりである.これは薬疹の機序を述べる上で重要な疑問であるが,これに答えるのは本稿の目的を大きく逸脱しており,詳しく知りたい人は拙著を参照していただきたい6)―8).
runより:続きは明日掲載します、思ったより長かった(´・ω・`)