6) 有機リン系殺虫剤
室内空気中から検出された4種の有機リン系殺虫剤について国際連合食糧農業機関(Food and AgricultureOrganization of the United Nations:FAO)/ 世界保健機関(World Health Organization:WHO)が定めたADIは,ジクロルボス:3.3 µg/kg/day,ダイアジノン:2 µg/kg/day,クロルピリホス:10 µg/kg/day,フェニトロチオン:5 µg/kg/dayである.
また,ダイジノン及びクロルピリホスについては厚生労働省から室内濃度の指針値が示されているが2),この指針値を策定するにあたりTDIが提示されている.
ダイアジノンについては,ラットにおける吸入曝露毒性に関する知見から,血漿及び赤血球コリンエステラーゼ活性阻害に関する影響よりLOAELを0.026 mg/kg/dayとし,これにUF=300を適用して TDI=0.0867µg/kg/day[TDI=0.026mg/kg/day/300=0.0867 µg/kg/day]としている55).
一方,クロルピリホスについては神経発達毒性試験に関する知見から,LOAELを0.3 mg/kg/dayとし,これにUF=1,000を適用してTDI=0.3 µg/kg/day[TDI=0.3 mg/kg/day/1,000=0.3 µg/kg/day]としている56).
なお,クロルピリホスは特に新生児の脳に形態学的変化を起こす知見から,小児弱者を対象とした値として更にUF=10を考慮し,TDI=0.03 µg/kg/dayとしている.
実態調査により得られた数値から(Table I),空気由来の曝露量最大値を求めた結果,曝露量最大値が最も大きかったのは,会社員のフェニトロチオン:0.18 µg/kg/day,次いで会社員のジクロルボス:0.018 µg/kg/dayが大きかった.
また,曝露量最大値がADIに占める割合でも会社員のフェニトロチオン割合が最も大きく(3.5%),次いで会社員のジクロルボス(0.54%)が占める割合が大きかった.
なお,ダイアジノン及びクロルピリホスの曝露量評価について,厚生労働省の示すTDI(クロルピリホスは小児弱者の値)を用いた場合,それぞれの空気由来曝露量最大値がTDIに占める割合は,ダイアジノン 主婦:1.1%,会社員:7.5%,クロルピリホス 主婦:10%,会社員:6.9%であった.
食事由来曝露量については,平成3年度~平成15年度に行われた厚生労働省のトータルダイエット調査57) において,上記4種の殺虫剤はいずれも食品から検出されておりそれぞれのADIに占める割合は,ジクロルボス:0.39%~1.31%,ダイアジノン:0.64%~2.16%,クロルピリホス:0.21%~0.45%,フェニトロチオン:0.31%~2.85%であった.
以上の結果より,フェニトロチオンにおける空気由来の曝露量最大値(会社員:3.5%)は,食事由来曝露量を上回るケースがあると考えられた.
7) ペルメトリン
ペルメトリンについてFAO/WHOが定めたADIは,ペルメトリン:48 µg/kg/dayである.
実態調査により得られた数値(Table 1)から,空気由来の曝露量最大値を求めた結果,曝露量最大値は,主婦:0.002µg/kg/day,会社員:0.005 µg/kg/dayと求められた.
それぞれの曝露量最大値がADIに占める割合は,主婦:0.004%,会社員:0.01%であった.
食事由来曝露量については,5ヵ所の地方衛生研究所の調査結果より,平成13~14年度(一部15年度)の調査で2.3%の野菜からペルメトリンが検出されたとの報告がある58).
8) フェノブカルブ
フェノブカルブについてFAO/WHOが定めたADIは,12µg/kg/dayである.
また,フェノブカルブについては,厚生労働省から室内濃度の指針値が示されているが59),この指針値を策定するにあたりTDIが提示されている.
ラットにおける混餌投与実験より,コリンエステラーゼ活性阻害に関する影響よりNOAELを4.1 mg/kg/dayとし,これにUF=400を適用してTDI=10 µg/kg/day[TDI=4.1 mg/kg/day/400=10µg/kg/day]としている59).
実態調査により得られた数値(Table 1)から,空気由来の曝露量最大値を求めた結果,曝露量最大値は,主婦:0.002µg/kg/day,会社員:0.001 µg/kg/dayと求められた.
それぞれの曝露量最大値がADIに占める割合は,主婦:0.02%,会社員:0.01%であった.
また,厚生労働省の示すTDIを用いて曝露量評価を行なった場合,曝露量最大値がTDIに占める割合は主婦:0.02%,会社員:0.01%であった.
食事由来曝露量については,5ヵ所の地方衛生研究所の調査結果より,平成13~14年度(一部15年度)の調査で,フェノブカルブについては検出されなかったとの報告がある58).