・(6)症状をリスク要因別にみたシックハウス症候群(全体像)
①多岐にわたるリスク要因が関与している
シックビルディング症候群・シックハウス症候群については詳しく症状をみてみると,その原因は多岐にわたることがわかった。全国規模の疫学調査でわかったことを表 1 にまとめた (18)。
この表から,シックハウス症候群の原因となる環境要因は,鼻,喉・呼吸器,眼,皮膚,精神・神経症状で,比較して大きな違いがあることがわかる。
北海道から九州まで全国の 6 地域共通でアレルギー歴はシックハウス症候群と有意の関連を示し,気候,住宅の気密性などの違いにかかわらず,アレルギー素因はシックハウス症候群のリスク要因になると考えられる。
アレルギー歴は,鼻,喉・呼吸器,眼,皮膚の症状で有意で,住宅のダンプネスも有意の原因だった。一方,化学物質は喉・呼吸器,眼の症状に強く関係していた。
ダニアレルゲンは,鼻,眼の症状と有意の関係が認められた。
精神・神経症状はストレスが原因になっていることがわかり,皮膚の症状で有意に女性の方がリスクが高くなった。
化学物質一辺倒のシックビルディング症候群・シックハウス症候群対策では片手落ちであること,症状に沿って環境改善が必要であることを示している。
シックハウス症候群の症状を目や鼻などへの粘膜への刺激症状や皮膚症状,精神・神経系症状などの症状別に要因との関連を明らかにするために,個々の症状別に解析すると,
①鼻の症状は年齢が小さいほど,湿度環境の指数が多いほど多く,アルデヒドなど数種の化学物質濃度と関係していたが,特に明確なのは真菌の種類で,Aureobasidium 属,Cladosporoium 属,Eurotium 属、Rhodotorula 属が多いほど「いつも症状あり」のリスクが高かった。ダニアレルゲンも多いほうが鼻の症状が多かった。
②一方,喉の症状は,湿度環境指標は同じく有意であったが,鼻の症状で見られたような真菌やダニアレルゲンの関係は認められず,化学物質濃度が有意の関連を認めた。
③眼に関する症状も喉の症状と同様に化学物質濃度が有意の関連を認めた。
④皮膚症状は女性に有訴が多く,真菌のうち Rhodotorula 属が多いほどリスクが高かった。
⑤頭痛など精神神経症状も同じく女性に有訴が多く,ストレスが多いこともリスクとなったが,化学物質,真菌,あるいはダニアレルゲンとの有意な関係は認められなかった (19)。
②アレルギーなど個人の体質とシックハウス症候群との関係
全国調査を行った 6 地域共通で現在のアレルギーおよび/あるいはアレルギー歴は,シックハウス症候群と有意の関連を示した。
気候,建材や気密性などの住環境の違いにかかわらず,アレルギー素因はシックハウス症候群のリスク要因となると考えられる。
この結果は海外の研究と同様である。
医師によって診断されたアレルギーの他に,原因がはっきりしないアレルギー様の症状や頭痛,倦怠感,集中困難など,非特異的症状が出現し,住居を離れると症状が軽快するような場合にも何らかの室内空気質が関与している可能性がある。
したがって疾患としてのアレルギーそのものには,食品など種々の原因があるとしても,アレルギーとシックハウス症候群とは全く別であると最初から両者を切り離すことには無理があると言える。