・出典:ダイオキシン・環境ホルモン対策国民会議
ニュースレター第111号 2018年6月
明らかになってきたネオニコチノイド系農薬のヒトや哺乳類への毒性
環境脳神経科学情報センター 木村‐黒田純子
ネオニコチノイド(以下ネオニコ)系農薬(殺虫剤)は、ハチへの毒性が科学的に確認され世界中で規制が強まっているが、日本ではいまだに多量に使用されているため、国内の生態・人体影響、ことに子どもへの低用量慢性曝露影響が懸念されている。
一方この数年、ネオニコのヒト・哺乳類への影響に関する研究が多数報告されてきた。
本稿では最近の研究概要を紹介する。
低用量ネオニコの発達神経毒性
2016年、国立環境研究所のグループの論文*1では、低濃度、高濃度(1,10mg/kg/day)のネオニコ系アセタミプリドをマウスの胎仔期から授乳期に母体経由で曝露すると、生まれた雄仔マウスの両群で特定の行動異常が見られ、仔マウスの脳内からはアセタミプリドが検出された。この報告で注目すべきは、ごく低用量のアセタミプリド曝露で行動異常を起こしたことだ。
ヒトでは自閉症、ADHD などの発達障害は男子に多く、特定の行動のみ異常がみられる。
マウスの結果をそのままヒトに外挿するのは議論のあるところだが、ヒトの発達障害の一部はアセタミプリドを曝露した雄仔マウスで再現されているとも考えられる。
2018年、神戸大のグループは、若い雄マウスにネオニコ系クロチアニジン、ジノテフランを投与し、その後の行動異常や脳の変化を報告した*2・*3。無毒性量注)(47.2mg/kg)以下もしくは同等量のクロチアニジンを若い雄マウス(9-10週)に単回投与したところ、不安行動を示し、海馬など脳に異常が確認された。
ジノテフランでは、無毒性量注)(550mg/kg)を基準に低用量から高用量を飲料水経由で、授乳期を過ぎた雄仔マウス(3-8週)に3-6週間投与すると、低用量でも脳の黒質でドーパミン神経細胞の数に異常が起こり、用量依存的に多動が確認された。
この二つの報告で注目すべきことは、次の2点である。
①農薬の毒性試験で影響が出なかった濃度のネオニコ曝露でも、行動や脳に異常を起こすことがある。
②脆弱な胎児、乳児期を過ぎても、ネオニコを曝露すると、行動や脳に異常を起こす可能性がある。
注)無毒性量:ここでは農薬の毒性試験のうち、マウスを用いた試験で影響が出なかった量を示す。