・ネオニコチノイド系農薬禁止に方針転換した英国 ―食料安全保障のためにはポリネーター保護が必要
理事 水野玲子
英国ネオニコ禁止への経緯
EU でネオニコチノイド系農薬(以下、ネオニコ)の3成分(クロチアニジン、イミダクロプリド、チアメトキサム)について一時使用規制が始まったのは2013年のことです。
その後、今年2018年、EU ではハウスなどの施設栽培を除く屋外におけるネオニコの全面禁止の是非を問う採決を予定しています。
一方、2013年に EU がネオニコ規制を導入した当時は反対に回った英国は、EU 脱退(Brexit)を経て2017年11月、ネオニコ使用継続の立場を変更しました。
ミツバチの減少など生態系と農業に大きな打撃を与えるネオニコの全面禁止に向けて動くEU に倣い、ネオニコ禁止に舵を切りはじめたのです。
自然環境の劣化がもたらす負の経済効果
ネオニコを禁止するには「科学的証拠が不十分である」、また「ネオニコ禁止が農業に悪影響を与える」と強く抵抗してきた英国が、ここに至って立場を逆転させた理由はどこにあるのでしょうか。
環境相のMichael Gove 氏は、「自然環境が劣化すると、経済的な落ち込みにつながる」と英国の自然環境の劣化について危機感をガーディアン誌で表明しました。
この二十年余りでネオニコはミツバチ大量死の原因となっただけでなく、さまざまな昆虫の棲みかとなっていた田園の生態系をすっかり変えてしまったからです。
ポリネーター(ハチなどの花粉媒介者)の経済的貢献は、1年に4億~6.8億ポンド(約600億~1000億円)。
英国の環境相もついに、農作物の授粉を担うポリネーターがこれ以上減少すると、国の食料の安全保障に差し障ることの重要性を認識したのです。
ミツバチなどの授粉昆虫を殺してしまっては、果物や野菜が実らず、食料は不足するかもしれないという理由で、英国は持続可能な農業という原点に立ち戻りました。
日本はいつになったらネオニコ禁止に舵を切る?
それに対して日本はどうでしょうか。行政や農薬の専門家らは今日でも、「国の将来の食料安全保障のために最も大切なのが“農薬”である」とする誤った考えに固執しています。
第二次世界大戦後、食糧不足が深刻だった時期に、農薬と化学肥料によって劇的に食料が増産され、それによって国民が飢えから救われたではないか、というのが彼らの言い分です。
もちろんそれは事実でしょうが、その後約70年経過し、今日では長年の農薬の多用によって自然は破壊され、農業、生態系を取り巻く状況は一変しました。
しかも、農薬は生態系破壊だけでなく、人の健康への影響さえ問題となっているのが現状です。
2000年初頭、早くもBuglifeという英国の自然保護団体は、ネオニコがミツバチだけでなく鳥など多様な生物に及ぼす甚大な影響について警告を発しています。
その代表であるMatt Shardlow 氏は「国民投票を経て EU を離脱した英国は、これまでより一層、自国の経済を健全に維持する努力が必要とされており、今回の、ネオニコ禁止への方針転換もそのひとつの自国経済を守るための強い意志のあらわれである」と長年待った今回の決定を歓迎しました。
環境を安全なものにしてこそ、持続可能な農業の未来はあることにわが国が気づくのはいつのことになるのでしょうか。