幼虫たちの世話をしなければならないときに、ハチたちの活動レヴェルが低下するのはとりわけ深刻な問題だ。
健康なハチは活発に筋肉を振動させながら、自分の体の熱で幼虫たちを温める。
クロールらの観察によると、イミダクロプリドを浴びたコロニーでは、正常なコロニーに比べて幼虫たちの体温維持がうまくいかず、幼虫の生育に大きな支障が生じる恐れがあるという。
「こうした殺虫化合物は、ほかにもさまざまなかたちでハチたちの成長に影響を及ぼしているかもしれません。わたしたちの観察結果がその一例に過ぎないとすれば、異なる環境や条件の下では、さらにひどいことになる可能性があります」と、クロールは言う。
野外の気温がマルハナバチにとって快適に保たれていれば、薬剤の影響は大きくないかもしれない。
しかし気温は変動する。
ハチ本来の、巣の温度を調節する能力がイミダクロプリドによって阻害されれば、幼虫たちは成長できないだろう。
群れをつくらないハチの、さらなる打撃
子育て中のハチに起きた異変はこれだけではなかった。
マルハナバチは通常、蜜ろうでブランケットのような覆いをつくって幼虫たちを温める。
クロールの実験では、薬剤を浴びていないコロニーの大半でこの行動が見られた。
一方、イミダクロプリドを浴びたコロニーではこうした行動は皆無だった。
「おそらくこのような直接的、短期的な行動を阻害するだけでなく、巣を構築する能力にも長期的な異変が生じ始めているはずです」と、クロールは語る。
だが、ほとんどの種類のハチは群れをつくらず単独で生きている。
単独行動をとるハチがネオニコチノイドを浴びるとどうなるのだろうか。
この種のメスはほとんどの時間を単独で過ごしている。交尾のために近づいてくるオスも、終わるとすぐに飛び去ってしまう。
カナダのゲルフ大学でハチと殺虫剤暴露に関する研究を行い、クロールの研究に関する解説文を書いたナイジェル・レインは、次のように話す。
「交尾を終えたあと、メスはさまざまな役割を一手に引き受け、巣づくり、食糧調達、産卵のサイクルを数週間、場合によっては数カ月にわたって繰り返さなければなりません。それが死ぬまで続きます。ですから、1匹のハチに殺虫剤を吹きかけることで、結果的にハチたちの繁殖活動に重大な影響を与えてしまうことは想像に難くありません」
ハチの種類によって異なる影響
こうしたハチたちとは逆の習性をもつのがミツバチだ。彼らは数千匹からなるコロニーを形成する。
ちなみに、クロールの研究対象であるマルハナバチは両者の中間に位置する種で、ひとつのコロニーに200匹ほどのハチが生息している。
ネオニコチノイドはミツバチの行動にもわずかながら異変を生じさせる。
しかし、小規模なコロニーや単独行動のハチへの影響に比べると小さなものだ。
レインは言う。
「食料を集める能力を鈍らせるのですが、1匹1匹が被るダメージは比較的小さく、もっと多くのハチたちが巣の外に出て任務を果たしているため、被害が表面化しにくいのです」
ミツバチにとってはよい話かもしれないが、ここに問題がある。研究者や規制当局はこれまで、ネオニコチノイド暴露の研究において、ほとんどの場合、ミツバチをモデルとして使ってきた。簡単に手に入るというのが理由のひとつだ。
しかし殺虫剤について言えば、ミツバチに当てはまることがマルハナバチや単独行動のハチには当てはまるとは限らない。
生息している世界の規模が違うのだから。
レインは「研究者たちや規制当局と連携し、潜在的な弱さをもつさまざまな種のハチたちの状況を考慮しながら研究を進めています」と語る。
今回の記事では、ハチたちを苦しめる要因をひとつ取り上げた。
クロールたちのチームが注目したのは、7種類あるネオニコチノイド系殺虫剤のうちのひとつだけだ。
だがほかの殺虫剤についても、この技術を使ってハチのコロニーへの影響を調べることができると彼らは考えている。
ハチが危機に瀕していることは間違いない。
だが科学者たちはこのように新しい技術を駆使して、ハチたちを脅かすものの正体を突き止めようとしている。
すっかりおかしくなってしまった地球にとって、これはおそらく朗報だ。