・https://wired.jp/2018/11/22/bumblebee-tracking-robot/?fbclid=IwAR1r8mRSDCBDeSnJr_Q9ChH1r0tit2lV98ZdwudTJdxMOtFSr71hks43028
2018.11.22 THU 08:00
農薬成分の一部はハチの活動を阻害する──QRコードを用いた自動観察で見えた衝撃の事実
マルハナバチの背中にQRコードを貼り付け、農薬にも使われる殺虫剤の影響を自動観察システムで追跡する研究の結果が発表された。
昼夜を問わずハチたちの動きを追跡したところ、衝撃的ともいえる生態系への長期的な影響が明らかになりつつある。
このところ自然科学関連の明るいニュースが見当たらない。
「わたしたちが猛スピードで進む先には、大規模な自然災害が待っている」といった話ばかりだ。わたしたちはこれまで環境をひどく傷つけてきた。
その結果、もはや「自然環境」と呼ぶのは、はばかられるような状態になってしまった。
その報いにハチのひと刺しを食らうときが近づいている。
作物の受粉作業の担い手であるハチの数が激減しているのだ。
だが、科学の力でこの窮状を救おうとする動きも始まっている。
マルハナバチの背中にQRコードを貼り付け、ロボットカメラでハチたちの動きを追うというものだ。
研究者たちは個々のハチを追跡し、彼らのコロニー全体の動静を観察するシステムを開発した。
観察の対象となるのは、神経毒物質イミダクロプリドの散布域にあるコロニーだ。
イミダクロプリドは殺虫剤のなかでも悪名高いネオニコチノイドの一種である。
観察から得られた結果は決して愉快なものではない。
だが、ネオニコチノイドがハチたちをいかに苦しめているか、どうすれば彼らを守れるかを解明するために役立てられるだろう。
長期的影響を考慮せず使われ始めた農薬
ネオニコチノイドは、殺虫剤のなかでも世界中で最も広く使用されている。
ハーヴァード大学の生物学者で、11月に学術雑誌『サイエンス』に掲載されたマルハナバチの追跡技術に関する論文の主執筆者でもあるジェームズ・クロールは、次のように明かす。
「この薬剤は特に農薬として使われ始めたころ、初期検査をパスしました。『ハチたちが飛び交う畑に、この濃度で散布しても安全なのだろうか』という疑問は解決したはずだったのです」
しかし、この検査方法は必ずしも万全ではなかった。
クロールは続ける。
「24時間あるいは48時間でハチが死ぬことはないでしょう。ところがさらに時間がたつと、ハチたちの行動に重大な変化が見られるようになり、長期的にはコロニーの機能と成長が害されてゆくのです」
一般的な殺虫剤であるイミダクロプリドのようなネオニコチノイド系薬剤は、ハチを瞬時に殺しはしないものの、その体に異変を及ぼす力をもっている。
例えば、畑にまかれたネオニコチノイドのせいで、ハチの方向感覚や花を見つける能力が鈍ることが、これまでの研究でわかっている。
ハチは自らの、さらにはコロニー全体の食糧を調達しなければならない。
だが、この薬剤はハチたちのそうした行動に深刻な影響を与える。
ネオニコチノイドを浴びたコロニーの内部で何が起きているのかを詳しく知ることは、これまで困難とされていた。クロールたちの研究チームが取り組んでいるのは、この問題だ。
24時間の自動観察でわかった衝撃の事実
彼らの研究室には、マルハナバチのコロニーを納めた透明なアクリル製ボックスが1ダース置かれている。
これらをふたつのグループに分け、一方には畑に散布されるのと同じ濃度のイミダクロプリドを与え、もう一方のハチたちには与えなかった。
ボックスを見下ろすように設置されたレールの上をロボットカメラが動き、各コロニーの様子を捉える。
クロールは次のように説明する。
「ひとつのコロニーにつき5分間程度の観察を毎日12回行っています。ほぼ2週間にわたって完全に自動運転できるシステムです」。
ハチの背中にはそれぞれQRコードが貼り付けられているため、コンピューターによる画像認識システムを使って、昼夜問わずハチたちの動きを追跡できる。
薬剤を浴びたコロニーとそうでないコロニーと間には明らかな違いが見られた。
「薬剤を浴びたハチたちは動きが鈍く、じっとしている時間が長くなります」と、クロールは言う。
巣の中心には世話を必要とする幼虫たちがいるのだが、「ハチたちはそこから少し離れたところで過ごすようになり、仲間同士の接触も減っていきます」
こうした行動の変化は夜間にさらに顕著になる。「昼間には問題なく機能しているように見えたコロニーが、一夜にして崩壊することもあるのです」