14:花王化学物質過敏症裁判判決文 | 化学物質過敏症 runのブログ

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3 争点2(被告の安全配慮義務違反の有無)について
 (1)使用者は,労働者に対し,労働者が労務提供のため設置する場所,設備もしくは器具等を使用し又は使用者の指示の下に労務を提供する過程において労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務(安全配慮義務)を負っている(最高裁昭和59年4月10日第三小法廷判決・民集38巻6号557頁,労働契約法5条)ところ,安衛法,安衛則,有機則などの規制は,公法的規制であり,これらが直ちに安全配慮義務の内容になるものではないものの,当該規制が設けられた趣旨や具体的な状況の下においてこれら規制が安全配慮義務の内容となる場合もあると解される。
(2)局所排気装置等設置義務について
 ア 本件検査分析業務は,第一種有機溶剤等であるクロロホルム(有機則1条1項3号,安衛令別表第6の2第14号)及び第二種有機溶剤等であるノルマルヘキサン(有機則1条1項4号イ,安衛令別表第6の2’第39号)を使用する検査であって,有機則による規制の適用を受ける「有機溶剤業務」に該当する(有機則1条1項6号ル)。

そのため,使用者である被告は,本件検査分析業務を行っていた1 0 7号室及び110号室に,局所排気装置等を設置する義務を負っていた(安衛法22条,有機則5条)。
   かかる安衛法及び有機則の規制の趣旨は労働者の健康被害を防止する点にあること及び有機溶剤の毒性は急性中毒又は慢性中毒の形で人体に致命的に作用することがあることに照らせば,被告は,原告に対し,雇用契約上の安全配慮義務として,局所排気装置等設置義務を負っていたと解すべきである。
イ 本件においては,ガスクロ検査業務ないしその前処理作業であるメチルエステル化作業が行われていた1 0 7号室には,局所排気装置等は設置されず,被告はその状態を放置していたと認められるから,局所排気装置等設置義務の違反が認められる。
  他方,110号室には,局所排気装置であるドラフトが2機設置されていたことが認められるから,同義務違反を認めることはできない。
ウ 被告は,1 0 7号室については,有機溶剤の取扱数量が少ないことから,有機則2条1項で定められた適用除外の要件を満たすためー,局所排気装置等設置義務を負わないと主張し,具体的には,平成22年におけるクロロホルムの年間使用量が1 0 6 0kgとなるところ,そのほぽ全量を本件工場内の研究本棟1 2 3号室で使用しており,原告が本件検査分析業務を行っていた期間も同様であったと主張する。

しかしながら,被告作成の同年8月3O日付けの作業環境測定結果報告書(甲34)においては,123号室におけるクロロホルムの使用量はけ1か月当たり10リットルとされておりI,クロロホルムの比重は約1.4回であることから(甲22),同報告書の記載に従えば,1 2 3号室でのクロロホルム使用量は年間約178kg(10×1レ48×12)にすぎないこととなり,被告の主張は客観証拠と矛盾する。

この点につき,被告は,同報告書の記載は代表的な作業及ぴ使用量のみ記載しているために実際の使用量はそれよりも多いと主張するが,これをうかがわせる証拠はないため,にわかに採用することはできない。

これに加えて,被告は,認定事実(9)のとおり,平成26年9月24日付けで,和歌山労働基準監督署から,局所排気装置等設置義務に違反したことを理由に,是正勧告を受けでいる。
  したがって,1 0 7号室について,有機則2条1項で定められた適用除外の要件を満たすと認めることはできないから,被告が局所排気装置等設置義務を免れることはなく,上記のとおり,同義務違反が認められる。
(3)保護具支給義務について
 ア 事業者は,有機溶剤業務に労働者を従事させる場合で作業場所における
  有機溶剤業務に要する時間が短時間である場合には,当該作業場所が屋内作業場所のうちタンク等の内部以外の場所の場合であれば全体換気装置を設けることで,当該作業場所がタンク等の内部である場合には送気マスクを備えることで,局所排気装置等設置義務を免れる(有機則9条1項,2項)。

そして,これらの規定により局所排気装置等設置義務を免れた場合には,事業者は,労働者に対し,送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させる義務を負うものとされている(有機則32条2号,33条1項1号)もっとも,本件では,認定事実(4)のとおり,原告はガスクロ検査業務を1日当たり十数回から数十回,アニオン界面活性剤含量測定業務を定期測定として週に1,2回のほか,臨時測定も多数行っていたことが認められるのであるから,有機溶剤業務に要する時間が短時間であるとはいえず,被告が局所排気装置等設置義務を免れるこどはない。
 イ そこで,被告の保護具支給義務違反の有無を検討するに,まず,かかる保護具支給義務の趣旨は労働者の健康被害を防止する点にあること及び有機溶剤の毒性は急性中毒又は慢性中毒の形で人体に致命的に作用することがあることに照らせば,上記送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させるという保護具支給義務は,雇用契約上の安全配慮義務の内容になると解すべきである。

そして,本件では,原告の作業場所には「キーメイトマスク」というマスクが設置されていたことが認められるものの,同マスクは,有機溶剤臭の除去に効果はあるものの,有毒ガスの発生する場所での使用はできないとされていることから(甲8),同マスクは有機則33条1項1号にいう有機ガス用防毒マスクに当たるとは認められない。

また,被告において送気マスクが設置されていた事実は認めることができない。
   したがって,被告には,有機ガス用防毒マスクを備え付けなかったという点で,保護具支給義務の違反が認められる(なお,原告は,耐熱かつ耐溶剤の機能をもうた手袋を備え付けなかった点も主張しているが,本件で原告が主張する有機溶剤中毒及び化学物質過敏症の罹患は,吸入による有機溶剤の曝露を原因とするものであるから,皮膚への障害ないし皮膚からの吸収を防止する手袋の設置義務違反については,損害との因果関係ないし結果回避可能性が認められない。

したがって,この点に関する原告の主張は採用できない。)○