――ユニリーバの新方針が実施されたのはアメリカだけですか。
アメリカ、イギリス、オランダ、ドイツを皮切りに、ほかのヨーロッパ諸国でも同様のサービスを計画しているとのことです。
――日本はどうなっているのですか。
日本法人のユニリーバ・ジャパンに取材を申し込んだところ、コーポレート・コミュニケーション担当の伊藤征慶さんから電話で次のような回答がありました。
「日本では法令を遵守して表示しており、現時点では先行している欧米の取り組みを注目している」。
日本が対象になっていないのは日本の消費者を軽視している表れでは、との問いには「そんなわけではない」。
ではなぜ開示しないのか、との問いには「……」。
――ユニリーバの新方針を受けた動きも出ているようです。
ユニリーバの発表の翌日、アメリカ・カリフォルニア州議会に、洗剤など清掃用品(家庭用・業務用)の成分を公表させる法案が提出されました。
清掃用品メーカーに、香料を構成する物質を含む全成分をラベルとオンラインで開示するよう義務づける内容です。これが成立すれば消費者も清掃業者も、十分な情報に基づく商品の選択ができるようになる、と提案した上院議員は語っています。
また「地球のための女性の声」というNPOは、ユニリーバの決定を歓迎するとともに、残された課題として①0・01%より少ない成分の開示、②対象地域の世界全域への拡大、③スマートフォンやパソコンを持っていない消費者でも情報を得られるようにする、の三つを挙げました。
そして、ユニリーバの決定は同業他社への圧力になるだろうとみています。
一方、「環境ワーキング・グループ(EWG)」というNPOは、ほかのパーソナルケア製品メーカーにユニリーバに追随して香料成分を開示するよう求める署名運動を始めました。
EWGは追随を求める有力メーカーとして、エイボン、シャネル、ジョンソン&ジョンソン、メアリーケイなど26社を挙げており、日本の花王も含まれています。
――花王の対応が注目されます。
花王に対応を取材したいと申し込んだところ、広報部の青山佳樹さんから電話で以下のような回答がありました。
「化粧品の成分は法令に基づき全成分を表示するが、香料については日本化粧品工業連合会の自主基準に基づいて『香料』とまとめて表示している。表示は業界団体として足並みをそろえてやっているから、1社で決められる問題ではない」
ユニリーバは単独で法令を上回る開示を始めたではないか、との問いに「ユニリーバ・アメリカも『スマートラベル』で実施している。香りをつけた製品については『無香料』の製品も用意し、ご希望の方にはそちらを選んでいただけるようにしている」。
――香りを好む人たちが香りつき製品を使い、ニオイを振りまいて、化学物質に敏感な人たちが被害を受けているのが現実ですから、無香料製品を併売してもほとんど意味がありません。
またユニリーバ・ジャパン、花王とも、単独で独自の表示をするのは難しいと言っています。
この国の業界の多くは、監督官庁と業界団体を中心とする「ムラ社会」であるようにみえます。
表示でも抜けがけはしないのでしょう。
日本では官庁は消費者より業界優先だし、市民運動も欧米ほど強くはありません。
メーカーも積極的ではないので、外圧でもないと、消費者の役に立つ詳しい情報が開示されるようにはならないのかもしれません(注2)。
(注1)ユニリーバ・アメリカは食品とパーソナルケア製品を主に販売しているが、EU域内のユニリーバは洗剤などの家庭用品も販売しており、家庭用品も成分開示の対象にしている。またEUが表示を義務づけた香料成分を含む製品は、その成分名をすでに開示している。
(注2)洗剤・洗浄剤の商品選びに役立つ明快な表示法改正を求める運動が1990年代に展開されたが、結局は業界の思惑に沿った改定となった。
おかだ もとはる・ジャーナリスト。『香害そのニオイから身を守るには』(金曜日)が発売中。
(2017年5月26日号に掲載)