ブータンにおける除草剤不要の有機稲作技術のプロジェクト
稲葉さんとまず相談して実行に移したことは、助成金の申請であった。
しかし、申請した三つの財団からすべて否定的な返事が来て、どこもだめか、と思ってがっくりしていると、まさに「捨てる神あれば拾う神あり」のことわざ通りに、JICA が3年間で1000万円の草の根技術協力事業として採用してくれることになり、2016年10月にブータンの首都ティンプーで調印式が行われて、正式にこのプロジェクトがスタートした。
このプロジェクトで、これまで行ってきたことは、次の通りである。
まず、パロの空港を見下ろす山の上に、今から40~50年前に日本から来て、近代農業の手法をブータンの人たちに伝えた西岡という人の直弟子の娘さんの家族が、有機農業を営んでいる農場があり、そこの圃場の一部を使って、稲葉さんが行ってきた除草剤不要の有機稲作を実験的に行うことにした。
水田に流れ込む前の水を、いったん池にためこみ、水温を暖かくしてから、水田に入れるために、水田の一番上のところに池を掘った。
この作業は、4月に日本から第一次ボランティアとして参加して下さった10人ほどで、一緒に池を掘った。
その後、第二次ボランティアとして5月末から6月初めにかけて日本から来てくださった9人の方たちと、有機農家の家族、そして、ブータンの農林省の職員たちの協力で、田植え前の代掻きを行って、ヒルムシロなどの雑草を根こそぎ除去してから、田植えを行った。
この有機農家では、西岡さんが日本からもたらした農林11号を代々育てており、この農林11号と稲葉さんが日本から持ってきたササニシキを植えた。
二番目の試験圃場は、首都ティンプーの王宮のすぐ上にある農林省の圃場(写真3)で、その一番高いところに、バックホーを使ってかなり大きな池を掘り、その池の水で田んぼに水を張った状態で、やはり日本から同行した協力者によって、代掻きを行い、大量に浮き上がったホタルイなどの雑草の種を流し出した。
そこの7面の田んぼに、日本から稲葉さんが持参したササニシキの苗を田植えした。
三番目の実験圃場は、首都ティンプーから、富士山と同じくらいの標高のドチュラ峠を越えて行く、バ ジョの農業研究開発センターの圃場を用いることにした。
ここは水田を含む大きな圃場があり、さまざまな品種のイネ、野菜、果樹などを試験的に栽培している。
首都ティンプーから北に向かってかなり行ったところであるが、標高がぐっと低いことと、大きな川の流れがインドに向かって流れているために、その川沿いにインドから暖かい空気が流れてくるようで、そこここにサボテンが群生しており、乾燥した暖かい気候のところである。
そこの圃場では、水田に水を常時供給するパイプが設置してあり、池を掘る必要はない。
この圃場には、研究者と共に、かなりの数の作業員がいて、機械を使って代掻きをするのにも、非常に優れた技術で機械を使いこなして、作業を行ってくれた。
ここでも、大量のホタルイの種が浮き上がってきたが、すぐ下が川であったので、その大量の種を、水田の排水口から流し出した。
ただし、柔らかな土が流出してしまうのを防ぐため、代掻きを行ったあと、「トロトロ層」と稲葉さんが呼んでいるソフトな土が落ち着くのを待って、種が浮いている水を流し出した。
ここの田んぼには、稲葉さんが日本から持ってきたササニシキを田んぼの約3分の1に植え、あとは、この試験場で試験的に育てていた IR28とIR64を、ボランティアを含む日本人10人余りとこの農場で働いているブータンの人たち10人余りで、一緒に並んで田植えをした。
一部は、田植え機を使った。