研究された酵素は、遺伝子的に異なることが知られている化学物質を解毒するために用いられる多くの重要な生物化学的経路にある酵素のほんの一部である。
例えば、この研究では 2yP2D6 の4つの対立遺伝子(alleles)を検証したが、実際には46の異なる対立遺伝子が存在する。
特定の化学物質を解毒する体の能力に与えるそれらの影響は異なり、あるものは増加させ、あるものは減少させ、あるものは影響を与えない。
そして、2YP2D6 遺伝子は有毒成分の代謝に重要なシトクロム P450 族にある多くの遺伝子の中のひとつに過ぎない。
これらの遺伝子的に異なる解毒経路のひとつあるいはそれ以上がやはりMCSへの遺伝的易罹患性に寄与することがあり得ると推定することは合理的である。
遺伝子的な分析の詳細もさることながら、これらの結果は遺伝子的な MCS への易罹患性を確立する上で重要であるが、MCS が化学物質に曝露することによって引き起こされるということを十分に示していない。
研究された酵素によって影響を受ける経路は外部汚染物質を解毒することに対して明らかに重要であるが、それらはまた、体の中で自然に起こる化合物の代謝を調整することに対しても重要である。
これらの異なる可能性をテストするためにさらなる研究が必要であろう。
マッケオンイッセンらは、因果関係について最終的な言葉を述べていないが、彼らの研究は、”そのような症状は存在するのか?”という議論から”特定の遺伝子型を持つ女性の MCS リスクが大きくなるのはどのような原因経路によるのか?”へ移ることに役立つに違いない。
その答えは、MCS 批判者らが主張するように精神的なものではなく、遺伝子間の相互作用、それらが生成する酵素、及びそれらの酵素が解毒する化合物にある。
多種化学物質(MCS)について
多種化学物質(MCS)は、多種の関連性のない化学物質の低用量曝露に反応して、複数の器官に症状が出て、慢性的に繰り返して生じる障害である。
MCS の人々は、一般的に、家庭用洗浄剤、農薬、塗りたてペンキ、新しいカーペット、合成建材、新聞紙インク、香水など日常生活の身の回りに見出される化学物質に低用量で過剰に反応する。
MCS は、議論がありよく理解されていない症状である。
医学界の全てが MCS の存在を認めているわけではない。
ある人々は MCS は精神医学的あるいはアレルギー的な症状であるとみなしている。
MCS の人々は、頭痛、発疹、ぜんそく、うつ、筋肉痛、関節痛、疲労、記憶力減退、混乱などを含む広い範囲の症状をしばしば訴える。
彼らの症状は原因であるとされる化学物質/製品への曝露を回避すると改善又は解決する。
対立遺伝子頻度(allele frequencies )と
遺伝子型分布(genotype distributions)
ケースとコントロールの遺伝子的構成を比較するために、マッケオンイッセンらは、グループが遺伝子的にどのように違うのかを研究している科学者らによって開発された2つの古典的な測定-対立遺伝子頻度と遺伝子型分布-を用いた。
それぞれの遺伝子は、遺伝子個々のDNAを構成すヌクレオチド(訳注:nucleotides(言葉の説明))の配列によって決定される複数の型を持つ。
異なる型は対立遺伝子(allele)と呼ばれる。
ヌクレオチド配列の相違は遺伝子発現の間にその遺伝子によって作られるたんぱく質の分子構造の相違に翻訳(translate)される。
異なる対立遺伝子のたんぱく質生産物は非常に異なった挙動をすることがあり得る。
したがって、対立遺伝子の相違はたんぱく質がその仕事、この場合は解毒、をすることができるかどうか、決定する上で著しく重要である。
本研究で検証された対立遺伝子は、人々の汚染物質を解毒する能力の相違に関係する。
研究チームが使用した測定のひとつは対立遺伝子頻度である。研究対象となった集団において遺伝子のコピーの総数のうち、ある型とそうでないものとがどのくらいあるか。
それぞれの対立遺伝子は、例えば *1 又は *2 というような異なるラベルを持ち、それは遺伝子学者のためにその対立遺伝子内の正確なヌクレオチド配列を特定する。
もうひとつ用いられた測定は、遺伝子型の分布である。
個々の人は(通常)各遺伝子の2つのコピーを持ち、それぞれの対の染色体の各対にひとつある。
あるものは同じ対立遺伝子の2つのコピー、例えば、*1/*1 を持ち、他の人は、例えば、*1/*4 のような組み合わせを持つ。
遺伝子型の分布は、例えば 全集団において20%が *1/*1 、60%が *1/*4 、そして 20%が *4/*4 というように、これらの異なる組み合わせを持つ人々の割合に関する総合パターンである。