・https://www.jstage.jst.go.jp/article/jriet1972/35/4/35_4_241/_pdf/-char/ja
シ ックハ ウス ・化学物 質過 敏症をめ ぐる現状 と課題
発行日: 2006/04/20
内 山 巌 雄
わ が 国 に シ ックハ ウ ス 症 候 群 の 語 源 とな る「シ ック ビル デ ィング症 候群 」の概 念 が入 って きたの は,筆 者が 国立 公衆 衛生 院(現 国立保 健 医療科 学院)で 勤務 を始めて しば ら く経 った1980年代前 半の こ とであった.
当 時 の建 築衛 生学部 の池田耕 一 先 生 か ら,「 こんな論 文 が 出 て い ます よ」とシ ック ビル デ ィング症候 群 を レビュー した論 文を紹介 された記憶が あるが,そ の時 「日本 には ビル管理法(建 築物 の衛生 的環境 の確 保 に関す る法律)が あ るか ら,こ んな こ とは起 こ りませ んね」と付 け加 えられ た.
そ の予 言 の通 り,わ が国で はオ フ ィス ビルで はほ とん ど問題 は起 きなか っ たが,そ の代 わ りに高気密,高 断熱 化 のすす んだ一般 家 屋 で シ ックハ ウス症 候群 が,ま た学校 で はシ ックス クール症候群が起 こって しまった.
そ してシ ックハ ウス症候群 を追 いか ける よ うに クローズア ップ されて きた のが,い わ ゆる化学物 質過敏症 の問題 であ る.
2003年 に厚 生労働省 は 「室 内空気 質健康 影響研究会 」 を設 け,こ れ まで に得 られ た医学 的知見の整 理 を行 なって,「 室 内空気 質健康 影 響研 究会 報告書:~ シ ックハ ウス症候群 に関す る医学 的知見の整 理~」(座 長 宮本昭正氏)を2004年2月 に公表 した.
こ れ は主 に 「シ ックハ ウス 症候 群 」 と「MCS(Multiple Chemical Sensitivity:多 種化 学物質 過敏 状態)/化 学物質過敏症 」 の2つ の論 点につ いて議論 して きた もの である.
こ の 中でシ ックハ ウス症候群 は医学的 に確立 した単 一 の疾患 とい う よ りも 「居住者 の健康 を維持 す る とい う観 点か ら問題 の ある住 宅において見 られ る健康障害 の総称」 を意味す る用 語 とみ なす こ とが 妥当 であると述べ てい る.
シ ックハ ウス症候 群 も化 学物質 過敏 症 もまだ まだ未解 明の部分 が多い疾患概念 である と言 えるが,室 内空気 質の指針値 建築基 準法の改正等 の効 果 もあって一時 より話 題 にな らな くなった.
し か し決 して解 決 された問題で はな く,特 に化 学物 質過敏症 は これか らの問題であ る とも言 える.
本特 集 は,こ の よ うな時期 に もう一度 シ ックハウス症候 群,化 学物質過敏 症 の現状 と課題 を明 らかに して,今 後の方 向 を探 ろ うとす る もの であ る.
特集 の内容 は,京 都市 の保健 所 での活 動 を元 に,化学物 質過敏症,シ ックハ ウス症候群 に悩 む市民に接 して きた経験 か ら,診 断,治 療,予 防 に関 して医療 ・保健,空 気質測 定,建 築分野 の専 門家 が連携 して患者 の救 済 と住環境 問題 の解 決に取 り組むネ ッ トワー ク構 築 を 目的 と して2002年4月 に設立 された 「住環境疾 病予 防研 究会」 の この3年 間の活動 の成果 の一 部で もある.
そ の設立 の経緯 と活動 内容 は,本 研 究会の設立 の立て役者 の一人 であ る伊藤英 子先生 の 「住環境疾 病予防研究 会の活動経過」 に詳 しいが,昨 年10月 に開催 された公 開シ ンポ ジ ウムで は,本 研究会 の会 員で ある高野裕久先生が診療 の現場 か ら,岩 井清 氏が化学物 質過敏 症の方 の家 づ くりの経験 を,北 角彰氏が 自治体の取 り組 み事 例 を発 表 され た他 に,自 らシ ックハウス症候群 を罹患 され,そ の経験 をも とに三重大学 で研 究や看 護相談 を行 なってお られ る今井 奈妙先生 の報告,奥 村裕先生 にはシ ックス クー ル問題を正 面か ら取 り組 んでい る京都府学校 薬剤 師会 の調査結 果 を,我 々の活動 を政治 の面 か ら支援 してくだ さっている京都府議 会議員 の澤照 美先生 に も講演 をい ただ き,そ の内容 を まとめて いただい た.
それぞれが ご 自身の係 わ ってい る現場 か らの報告であ り,い ず れ も机 上 の もので はない迫力 と示 唆に富 んだ内容 とな った と感 じている.
本特 集 を読 まれた学会 員の皆様が少 しで もシ ックス クール症候群 や化学物 質過敏症 を理解 していただ く助 け とな り,こ れか らの活動 の ヒン トになれ ば幸 いであ る.