3. 今後の期待
本研究の成果は、今後の地球温暖化に代表される全球気候変動の予測結果を改善する上で重要な指針となります。
「京」のような高い計算性能を持ったスーパーコンピュータを用い、高解像度で長期間の全球エアロゾルシミュレーションを行うことによって、これまでの解像度では難しかったエアロゾル・雲相互作用の詳細な表現が可能になりました。
今後、ポスト「京」[7]のような、より高性能なスーパーコンピュータの性能を最大限駆使することで、より不確実性を減らした気候変動予測が可能になると期待できます。
例えば、本研究のような詳細なシミュレーションを長期間にわたって実施することで、地球温暖化などの全球気候変動の見積もりが大幅に改善できる可能性があります。
本研究では、人工衛星による観測も重要な役割を果たしました。
それらの衛星に加え、2017年12月に打ち上げられ、初期校正検証運用中(2018年3月現在)の気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)[8]および日欧共同で開発を進めている雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ(EarthCARE/CPR)[9]といった地球観測衛星を組み合わせて用いることで、高解像度・高頻度での観測が可能になり、本研究で主に対象とした雲の特性を詳細に調べることが可能になります。
これらの衛星群とスーパーコンピュータの連携により、大気中のエアロゾルや現在の数値シミュレーションでは再現が難しいとされる雲の特性に関する理解が向上することで、数値シミュレーションの精度も向上すると期待できます。
4. 論文情報
<タイトル>
Aerosol effects on cloud water amounts were successfully simulated by a global cloud-system resolving model
<著者名>
Yousuke Sato, Daisuke Goto, Takuro Michibata, Kentaroh Suzuki, Toshihiko Takemura, Hirofumi Tomita, and Teruyuki Nakajima
<雑誌>
Nature Communications
<DOI>
10.1038/s41467-018-03379-6
5. 補足説明
[1] スーパーコンピュータ「京」
文部科学省が推進する「革新的ハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)の構築」プログラムの中核システムとして、理研と富士通が共同で開発を行い、2012年9月に共用を開始した計算速度10ペタFLOPS級のスーパーコンピュータ。
[2] エアロゾル
大気中を浮遊する微粒子の総称であり、10万分の1ミリメートルから100分の1ミリメートル程度の半径を持つ。
上述の黒色炭素に加え、黄砂に代表される地面から巻き上げられた土壌粒子、海塩粒子のほか、大気中で化学物質が変質して粒子になるものもある。
[3] 解像度
本原稿においては、気象モデル・気候モデルの格子間隔を示す。
[4] HPCI一般課題
HPCIとは「京」を中核として全国の主要なスーパーコンピュータを高速ネットワークでつなぐことで、ユーザー層が全国のHPCリソースを効率よく利用できる体制と仕組みを整備し提供するプロジェクト。
全国規模でニーズとリソースのマッチングを可能とすることにより、萌芽的研究から大規模研究、さらに産業利用にわたる幅広いHPC活用を加速し成果の社会還元を図る。
HPCI運用事務局は高度情報科学技術研究機構である。一般課題とは「京」を中核とするスーパーコンピュータを利用する一般的な研究全般を対象とする研究課題。
HPCIとはHigh Performance Computing Infrastructureの略。
成果事例についてはhttp://www.hpci-office.jp/pages/news_publications 参照。
[5] NICAM
全球の大気を超高解像度でシミュレーションすることのできる気象・気候モデル。
雲解像モデルと呼ばれる。
従来の全球気象モデルでは、大規模な大気の循環と雲・降水プロセスとの関係について、水平解像度が不足しているためになんらかの仮定が必要とされ、不確実性の大きな要因となっていた。
NICAMは地球全体で雲の発生・挙動を忠実に表現することにより、高精度のシミュレーションを実現している。開発当初から並列計算機での使用を念頭におき、従来の計算手法を見直している。
これにより、スーパーコンピュータ「京」のような超並列計算機の特性を生かした大規模計算が可能になった。NICAM はNonhydrostatic ICosahedral Atmospheric Modelの略。
[6] SPRINTARS
九州大学応用力学研究所が中心となり開発してきたエアロゾル輸送モデル。
エアロゾルの輸送過程(発生・移流・拡散・化学反応・湿性沈着・乾性沈着・重力落下)に加えて、エアロゾルによる太陽・地球放射の散乱・吸収に伴う影響、およびエアロゾルが雲に及ぼす影響を計算する。
これまで、東京大学大気海洋研究所(気候システム研究系)・国立環境研究所・海洋研究開発機構が開発している大気海洋結合モデルに結合した実験が行われ、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)第4次(2007年)および第5次(2013年)評価報告書のエアロゾルによる気候への影響評価に大きく貢献した。
本研究よりも低解像度のシミュレーションは、日々のPM2.5予測に利用されている(http://sprintars.net/forecastj.html)。
SPRINTARSはSpectral Radiation-Transport Model for Aerosol Speciesの略。
[7] ポスト「京」
「京」の後継機として、2021年から2022年の運用開始を目標に、理化学研究所が主体となって開発を進めている次世代フラッグシップスーパーコンピュータ。
[8] 気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)
雲・エアロゾルなどのさまざまな温暖化予測の精度向上に不可欠なデータを取得。
「しきさい」に搭載されている多波長光学放射計(SGLI)は 地球全体を約2日間で観測する1000km以上の広い観測幅と高い分解能を両立したセンサであり、偏光・近紫外観測機能により、これまで精度よく捉えることが難しかった陸上エアロゾルも観測する。
GCOM-CはGlobal Change Observation Mission-Climateの略。
[9] 雲エアロゾル放射ミッション/雲プロファイリングレーダ(EarthCARE/CPR)
日本と欧州が協力して開発を進める地球観測衛星ミッション。
日本が開発する雲プロファイリングレーダ(CPR)の他、大気ライダー、多波長イメジャーおよび広帯域放射収支計の四つのセンサにより、雲、エアロゾルの全地球的な観測を行い、気候変動予測の精度向上に貢献する。EarthCAREはEarth Clouds, Aerosols and Radiation Explorerの略。
6. 発表者
理化学研究所 計算科学研究機構 複合系気候科学研究チーム
客員研究員 佐藤 陽祐(さとう ようすけ)(名古屋大学大学院工学研究科助教)
チームリーダー 富田 浩文(とみた ひろふみ)
runより:スパコンの京って世界3位くらいだったかな?
こういう事にもっと活用してほしいですね。