4:6-クロロニコチン酸が尿中に検出され亜急性ニコチン中毒様症状を示した 6 症例 | 化学物質過敏症 runのブログ

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Ⅳ 考  察
6 CNA の検出法として,過去に GC/MS/MS 法が報告されているが,ヒト尿からの検出は今回のLC/MS 法が初めてである。

日本の一般人の CPN被曝が無視できない量であることを示唆する。

IC法は,LC/MS 法と比べて感度は低いが,分析時の減衰がなく簡便で,スクリーニング法として一定の役割が期待できるかもしれない。 
 今回,IC 法と LC/MS 法の両方で尿中 6 CNA が検出された症例は,亜急性の頭痛・全身倦怠感・動悸・胸痛・腹痛・筋痛,手指振戦・短期記憶障害・発熱・咳,洞頻脈・洞徐脈・不整脈などの心電図異常が,同時に出現していた。

頭痛,発熱,短期記憶障害・意識障害・全身倦怠感は中枢神経系,手指振戦,筋痛は神経筋接合部,腹痛,咳,胸痛,動悸,心電図異常は自律神経節にそれぞれ存在するニコチン様アセチルコリン受容体刺激症状と解釈可能である。

過去の CPN 中毒の症状8)~11),すなわち意識障害,低血圧,頻脈,不整脈,頭痛,嘔気,筋痛とも似ているし,2005 年夏のマツクイムシ防除のためのアセタミプリドの地上散布後に周辺住民 78 人が訴えた,亜急性の頭痛,全身倦怠感,吐き気,胸痛,動悸,不眠,焦燥感などの症状,手指振戦,筋脱力,短期記憶障害,心電図異常などの所見とも似ている17)。
 尿中 6 CNA の由来として,国産果物または茶飲料に残留した CPN またはその代謝産物の亜急性被曝がまず考えられる。

患者の既往歴に自宅や近隣で殺虫剤の大量使用はなく,CPN の残留基準が比較的高めに設定されている国産果物または茶飲料の連続多量摂取があり,国産果物と茶飲料の摂取禁止と保存的治療により消失したからである。
6 CNA 排泄のピークは発症数日以降で,臨床経過も CPN 原体摂取後の急性中毒10)より長かったことから,発症に関して CPN 原体より半減期の長い代謝産物の関与が疑われる。

CPN 原体の人体への毒性は低いが,植物体内の代謝産物のうち,デスニトロイミダクロプリド,デスシアノチアクロプリドは原体の数百倍,ニコチンなみの毒性をもつ3)4)し,原体の数十%の毒性をもつ代謝産物が多数あり4)14),デスシアノアセタミプリドのように哺乳類に対する毒性が未知のものもある3)。

CPN は植物体内で速やかに代謝される3)18)が,どのような代謝産物が,いつ,どれくらい生成されるかは,植物の種類,生育条件,収穫後の保存期間,保存条件によりさまざまと考えられる。

従来の有機リン系殺虫剤,カーバメート系殺虫剤による汚染食品の中毒と異なり,原体のみの残留分析を行っても,摂取量と症状との関係を得るのは困難と予想される。

また,原体および代謝産物の人体内への蓄積,排泄には個人差が大きいと考えられる。

CPN の代謝産物の分析は,標準物質が入手困難で行えなかった。
 わが国でのネオニコチノイド,とくにアセタミプリドの残留基準は高く,2010 年の見直しでも欧米の基準と比べてまだ高い(Table 1)。

例えば,体重25 kg の小児が残留基準値 5 ppm のアセタミプリドを含んだブドウを 500 g 摂取すると,0 . 1 mg/kg/day の摂取となり,急性参照用量(中毒を起こし得る 1 日量)に達する14)。
 ネオニコチノイドは,十分な安全性の検証が行われないまま使用が激増し,同一作物に複数種類のネオニコチノイドが残留する例も報告されている19)。
イミダクロプリドに胎児毒性20),チアクロプリドとチアメトキサムに発癌性がある21)。

ネオニコチノイドは環境に蓄積することがあり,ハチの大量死や蜂群崩壊の原因の 1 つとして疑われている22)。
 今後の課題として,ネオニコチノイド代謝産物の標準物質の作成,食品・生体試料中の原体・代謝産物の分析法の確立,ネオニコチノイド曝露および果物・茶飲料摂取と中毒発症に関する前向き研究,胎児被曝と小児の神経発達についての調査,他の農薬との併用の安全性の検証,ネオニコチノイド使用の実態調査,原体および分解産物の環境中濃度測定(土壌,河川・水道水,海水,空気中粒子状物質)があげられる。

 

Ⅴ 結  論
 患者 6 人の尿からクロロピリジニルネオニコチノイドの代謝産物 6-クロロニコチン酸を検出した。

患者は,頭痛・全身倦怠感・動悸・胸痛・腹痛・筋痛を訴え,手指振戦,短期記憶障害,発熱,咳,心電図異常がみられた。

全例国産果物,茶飲料の摂取禁止と保存的治療により数週間の経過で症状が消失した。
要旨
 クロロピリジニルネオニコチノイド(以下 CPN,アセタミプリド,イミダクロプリド,チアクロプリド,ニテンピラム)は近年使用が増加しているネオニコチノイド系殺虫剤で,共通の尿中代謝産物 6-クロロニコチン酸(6 CNA)が被曝指標となる。

日本の CPN の食品残留基準値は欧米に比べ高いが,ヒトで 6 CNA が検出された例はない。われわれは,2008 年 8 月~10 月に,殺虫剤被曝の既往がなく 24 時間以内に発症した原因不明の体調不良を訴え受診した 6~52 歳の患者 11 人(男:女=2:9)の同意を得て初診日以降の随時尿 62 検体を分析し,イオンクロマトグラフィー法で 6 CNA を 6 例 9 検体から検出した。

この 6 例の 20 検体から液体クロマトグラフィー質量分析法で 6CNA を最大 84 . 8 μg/L,初診日以降,最長第 20 病日まで検出した。

6 例は,6~45 歳(男:女=1:5)の非喫煙者で,100%に頭痛,全身倦怠感,10Hz 前後の安静時手指振戦,短期記憶障害,JCS I-1 の意識障害,83%に 37℃以上の発熱,咳,動悸,胸痛,腹痛,筋痛/筋攣縮/筋脱力,83%に心電図リズム異常(洞頻脈,洞徐脈,または間欠性WPW 症候群),83%に国産果物 500 g/day 以上の摂取,66%に茶飲料 500 mL/day 以上の摂取がみられた。全例果物・茶飲料の摂取禁止と保存的治療により数日~数十日の経過で回復した。