・においの特性
においの特性には①強度、②質、③認容性、④広䗄性がある。
においの強度(臭気強度)は人間の主観的判断により6段階で表示される。
悪臭防止法が定める規制基準値は、臭気強度が住宅地で2.5、工場地帯の場合は3.5である。
においの質は言葉で表現される。
悪臭の場合には、アンモニア様、腐敗臭などと言われ、芳香の場合は果実香、バニラなどの表現が使われる。
光や音は波長や振動数などで客観的に表示できる。
味は甘い、苦い、酸っぱい、塩からいの4種類で表現できる。においはどう表現すればよいかのだろうか。
大半の人間は個々の臭気成分のにおいを独立に感知できるわけではなく、総合的なにおい感覚として感知している。
しかし、調香師は個々の臭気成分を独立に感知する能力を持っている。
犬などは個々の臭気成分を個別に感知するために、個人などを識別できる。犯人の足跡を辿ることも可能になる。
認容性は臭気の快・不快度を主観的判断で9段階に分ける。香水は良いにおいであるが、「過ぎたるは及ばざるがごとし」のように付けすぎると悪臭になってしまう。
においの認容性は臭気強度によって変化するのである。
広䗄性は臭気の広がり、つまり臭気が広がっていき、においを感じなくなるときの広がりの大きさを表す。臭気濃度、臭気指数で表示される。
臭気濃度は「嗅覚測定法」により人間の嗅覚で測定されるが、人間の嗅覚は疲労しやすく、個人差があるという欠点がある。
におい成分の機器測定と官能試験
においの成分は、揮発性を有し、分子量がおおよそ300くらいまでの化学物質で、強くにおうのは炭素数が10個程度のものが中心である。
現実のにおいは複数の成分を含んでおり、バラの花の香りは100種類以上の臭気物質のにおいが混じり合っている。
においの原因となる物質を調べるには、揮発性物質分離分析法が使用される。
ガスクロマトグラフィ質量分析法という技術が広く利用されている。
また混合成分をガス化してカラム(内径0.2mm 程度、長さ30~60m)を通すことにより個々の成分に分離し、個々の成分を検出器や人間の嗅覚で検知するオルファクトメリーという手法もある。
しかし、化学分析には限界がある。
分離のためにガス化すると、熱分解しやすい物質や反応性の高い物質は分解してしまうために、偽のデータにだまされやすいことである。
特に、含窒素化合物は注意が必要である。
また、食品や化粧品などに使われる香料は、成分や組成が企業秘密であり、他社が化学分析でにおい成分を解明できないようにする目的で、ガスクロマトグラフィを妨害するような化学物質が意図的に添加されている場合もある。
ガスクロマトグラフィで分離された多くの臭気成分が何という物質であるかを調べるには、質量分析法(MS)や窒素・りん検出器(NPD)、硫黄検出器(FPD)などが使われる。
残念ながら、これらの装置は可能性を示すだけなので、同定には標準品を用いた確認作業が不可欠である。
この作業を怠ったために、間違った情報を発信する例が後を絶たない。
またオルファクトメトリーによる臭気計測にも限界がある。
カラムから流出するガスは温度上昇とともにバックグランドの異臭が含まれ、正しい判定が困難になるということ、また、流出ガスは乾燥した状態なので、嗅覚が疲労しやすいということである。さらに、ガスクロマトグラフィで分離された成分の臭気が元の原臭気とは異なっていることが多く、においがどこまで解析できたのか分かりにくい。
半導体においセンサーの活用
ガスクロマトグラフィのような本格的なものではないが、半導体においセンサーで臭気発生源と臭気状況を把握して対策をすることができる。
大阪大学の新築の文系総合研究棟(豊中キャンパス)で女性職員2名が体調不良となり、シックハウスと診断された事件(2008年)では、ポータブル半導体においセンサーで濃度が高い部分を見つけ、対処を行った。
東京理科大学でも、悪臭苦情の発生源特定や日常的監視にポータブル半導体においセンサーを使用している。
においが人間に及ぼす影響
最後ににおいが人間に及ぼす影響をまとめる。
においの快・不快は人間の心理に大きく作用するだけでなく、ジャスミンの香りは脳の活動を活性化し、ラベンダーの香りは沈静化すると言われる。
また芳香でも有害な場合があり、悪臭でも有害性が弱いことがある。
シックハウス症や化学物質過敏症の人は普通の人には検知閾値以下の濃度でも感知できるのではないかと考えられる。