考察
国立 療養 所盛 岡病 院の化 学物質過敏 症 外来 で はMCSの 診 断 の一助 とす る た め に, 外 来 初診 時 にMillerの 開発 した世界共通 で使 用で きる こ とを 目指 したMCSの スク リーニ ング, 診 断の ための問診票QEESI(日 本語 版)に 回答 してもらってい る.
本研 究 の 目的 は環境要 因 となる化学物 質 に対 す る不耐 性 をQEESIに て 予 測 で きるのか, 各 因子 に特徴 的 な症 状が あ るのか, またMiller & Prihodaの診 断基準 は実 際 の症 例 の診断 に寄与 す るのか を検証 す る ことであ った.
対 象 は外 来受 診 の きっか けとな った症 状発 現 に関 して何 らかのエ ピソー ドと して環 境要 因 の影響があ った と患 者 自身が 自覚 して いる者 と した.
今 回 の32症 例 の中 に同一 の環境下 で症状が発現 した事例が3組 あ った.
平 成15年8月 に当院 の近 くにオ ープ ンした大型 シ ョッ ピングセンターの6症 例(No.9, 11, 12,13, 15, 18)と 自宅 が火事 にな り燃焼 部分 を改 築 して住 み始 めた3症例(No.6, 7, 8), 新築 入居 の2症 例(No.14, 20)である. この うち開業 した大型 シ ョッピングセ ンター内の歯科 医院では歯科 医師を含め職員全員が開業後2週 間以 内に眼の痛 み, 流涙, 皮膚の痒み などの激 しい症状 を起 こした.
著者 らが以前, 医学部学生 の解剖実習 における ホル ムアル デ ヒ ド(FA)曝 露 によ る症状 につ いて検討 した際, FA濃 度 が作業環境基準 よ り高 い場 合 には80%以 上の学生 に眼 の刺激感,の どの刺激感が 出現 し, 実習中の身体症状 はアレルギー歴 を有す る者 で有意 に程度,症状数 と も多か った7)8).
この ことか らいえ る ことは,歯科医院の化学物質濃度測定 で はFA濃 度 は室内環境基準 以 下 で あ っ たが, 他 の何 らか の 化 学 物 質 濃 度 が か な り高 か っ た も の と予 測 さ れ る.
興 味 あ る こ と は大 型 シ ョ ッピ ン グ セ ンタ ー6症 例 全 員 が ア レル ギ ー歴 を有 して い たこ とで あ る.
しか もMiller & Prohidaの 分 類 で は, これ ら の6症 例 の うち1例 の み が, MCS患 者 の確 率 が 非常 に高 い と分類 されが, 他 はMCSで はな く, 化学物 質濃度が高 いために症状 が起 こった もの, す なわち狭義 のシック ビルデ ィ ング症候群 と考 え られ, QEESIで の分類 はこれ らの症例 を明確 に判定で きた.
これ らの症 例 は職場 を離 れれば明 らかに症 状が な くな り, また シ ョッピングセ ンターで換気 を改善 し, 時間 の経過 とともに症状が改善 した.
火事 の症 例 は母, 子, 孫 でみな アレルギ ー歴が あ ったが, 3歳 の孫 はア レルギー症状が増悪 した もの と考 え られ たが, 母子 はMCS患 者 の確率 が非 常 に高い と分類 され た.
と くにNo.7は もと もと学 生 時代から トルエ ンやキ シ レンな どの有機溶媒 を扱 ってお り以前か ら化学 物質曝露 があ ったためMCSが 発症 しやす い状況 にあった もの と考 え られ る. 新築入居 の夫婦 の症例 は、もともと夫 が内装業で, 妻 は洋服売 り場 で仕事 を していたので通常 よ りは化学物質曝露 の多 い状 況で あったことが発症 の きっかけにな った もの と考え られ る.
またNo.5の 苛性 ソー ダ曝露の症例 はQEESIで の分類で はMCSは否定 され, MCSよ りむ しろ中毒 に近 い もの と考え られ る.
以 上 よ りQEESIはMCSの 診 断 に寄与 す るばか りでな く, 化学物質曝露 の状況が高 濃度 曝露 なのか, 低濃度で も症状が起 こって くるMCSに よる ものかを鑑別 す るに も有用で あ り, 負荷 ブースを有 して いない一般 の施設において も十分活用す る価値 があ る.
次 に化学物質不耐性 と症状 との関連 につ いてエ ピソード前後でみて みると, 化学物 質不耐性因子 と相 関がみ られ た症状 はエ ピソー ド前後 で異な って いた. エ ピソー ド前 の症状 で は車 の排気 ガス, タバ コの煙, ガソ リン臭,香水 ・芳香剤 で気管粘膜症状 と強 い相関が見 られ, 殺 虫剤 ・除草剤, 消毒剤 ・ク リーナーで心循環症状 と強い相関が見 られた.
一方, 化 学物質不耐性因子 の合計 ス コアは気管粘膜症状 と強い相 関がみ られた. エ ピソー ド後では各化学物質不耐性 因子 とも多 くの症状 と相 関が見 られるよ うにな ったが, エ ピソー ド前 で見 られた気管粘膜症状 とは相 関が見 られな くな り, 筋, 心循環, 認識, 神経症状 と強い相 関が見 られた. 因子別 では殺虫剤 ・除草剤,ガ ソ リン臭, ペ ンキ ・シ ンナ ー, 消毒 剤 ・ク リーナー,マニキ ュア ・ヘ アスプ レーでは多種類 の症状 と相関が見られ た. エ ピソー ド後 に症状 ス コアが高 い者 はMCSの可能 性 が 高 い ので, 筋, 心 循 環, 認 識, 神 経 症 状 はMCSと そ うで ない者 を鑑別 す る症状 で ある と考え られる. 気 管 粘膜 症 状 はMCSに 特 徴 的 な症 状 で はな く,MCS発 症 前か らもともとあ る症状 と考 え られ る.
もともとア レルギー性素 因を有す る者で, 気管粘膜症状 ス コアが高 か ったのは喘息や ア レル ギー性鼻炎 の症状 と考 えられ る.
北 條 らが 日本 人 のMCS患 者 と健 常 人 にQEESIを 応 用 した報 告で は, 因子 分解 に よる と症状 では神経症状 がMCSや シックハ ウス症候群 患者 の鑑別 に最 も重要 な指標項 目であ る可能性が示唆 される としており9), 本研究 の結果 と一致 す る.
さ らに各化学物質不耐 性因子が どのよ うな 日常生活 障害 に影響 して くるのかをみたが, 車 の排気 ガス, タバ コの煙, 殺虫剤 ・除草剤, ガ ソリン臭, 消毒剤 ・ク リーナーの因子 で多 くの項 目で障害が強 く見 られた.
また化学物質不耐性合計 ス コアが高 い者 ほどで新 しい家具 な ど, 衣類, 化粧 品, 社会 活動, 家族関係, 家事 で強い障害 がみられ, ま ともに 日常生活を送 るのが困難 であ ることがわか った.
と くに車の排気 ガス, 殺虫剤 ・除草剤, ガ ソ リン臭 など屋外 環境要 因 は日常生 活障害 への影響 が強 く,いわゆ るシ ックハ ウス症候群 におけ る室 内環境 物質 と異な り個人 の努 力だ けで は回避が困難 であ ることが判 明 した.
MCSの 発 症予防 のた めには, 国 ・自治体へ室 内環境汚染 物質だ けで な く, 大気汚染物質, 農薬散布 などについての環境基準 の見直 しや実 際の環境 改善事業 などを働 きか けて い く必要性が ある.
runより:化学物質不耐性とは化学物質過敏症の別称みたいなものと思っていいです。
正確には「突発性化学物質不耐性」「突発性環境不耐性」ですね( ̄_ ̄ i)