・EC内での議論
EC による基準案は、EC の 植物、動物、食品及び飼料に関する常任委員会(PAFF 委員会)に提出され、7回にわたって審議されました。
PAFF 委員会は、各加盟国を代表する専門家で構成される専門家委員会です。
フランスは、この委員会で、スウェーデン、デンマークとともに、EDC はハザードベースで定義づけるべきであり、作用の強さ(potency)を考慮に入れるべきではないという論陣を張りました。
また、フランスは、EDC を、内分泌への影響が検証されている物質、推測されている物質、疑われている物質という3つのカテゴリーに分けるべきだと主張しました。
しかし、ドイツがこれに反対し、ハザードベースでは現実的な規制ができず、実際の人へのリスクを考えるために曝露影響を考慮に入れるべきだと主張しました。
議論の末、フランスはドイツの圧力に屈して態度を変え、2017年7月4日、植物保護製品については、EDC のおそれがある物質を規制対象としない EC の基準案を反映した PPP 規則の修正案が、PAFF 委員会で承認されました。
EC の Vytenis Andriukaitis 委員をはじめ、推進派は、これで EDC の規制が進むと評価しました。しかし、PPP 規則修正案は、PAFF 委員会で承認されただけでは効力をもちません。
最終的に欧州委員会で可決されなければ発効しません。
NGO 連 合 の EDC Free-Europe は署名活動を展開し、31万5000人から基準案反対の署名を集め、欧州議会に提出しました。
10月4日、欧州議会は、EC の基準案を含む PPP 規則修正案を否決しました*5。
そして、EC に対して、新たな PPP 規則の改訂案を提出すること、ハザードベースでの判断基準を確実にすることなどを要求しました。
PPP 規則は、予防原則に基づいて、内分泌かく乱作用を有するおそれのある物質は全て上市を禁止せよと定めています。
EU 市民は、ECの基準案は、科学的証拠に基づかずに EDC 規制の抜け穴をつくろうとするものであって、PPP 規則に反しているとして、NO をつきつけたのです。
EU の市民活動家らは、この否決を民主主義の勝利と評価しています*6。
他方、この否決は PPP 規則に関するもので、バイオサイド製品については判断されていません。
また、ECHAとEFSA は既に EC の基準案に基づくガイドラインの作成を進めており、まもなくパブリックコンサルテーションにかけることを予定していました。
欧州議会の否決により、バイオサイド製品やガイドラインの行方も不透明になりました。
2009年から続けられてきた EDC基準案づくりは、結局結論が出ませんでした。
しかし、EU はその取り組みを放棄したわけではありません。
確実に EDC を規制するためにEU は民主主義に基づいて議論を深め、前進しています。
他方、日本は、2016年6月に「化学物質の内分泌かく乱作用に関する今後の対応― EXTEND 2016 ―」を公表しましたが、調査研究を進めることにはなっているものの、実質的な規制の議論が始まっているとは言えません。
*1 粟谷しのぶ「内分泌かく乱化学物質(EDC)規制 EUにおける動向」JEPAニュース101号
(2016年10月)
*2 Regulation(EC)No 1107/2009
*3 Regulation(EU)No 528/2012
*4 COM(2016)350
*5 European Parliament, Resolution B8-0541/2017
*6 Anna Lennquist “Analysis: The parliament's rejection of the EDC criteria proposal is
a victory for democracy” October 5, 2017.
◆これまでの経緯
1999年12月 欧州委員会が「内分泌かく乱物質に対する共同戦
略」を公表
2009年 欧州議会がPPP規則を採択
2012年 欧州議会がBP規則を採択
2012年 コルテンカンプらが「EDCの評価の現状」を発表
2013年3月 EU域内の70の市民団体がEDC-Free Europeを
結成
2013年7月 欧州委員会がEDCによる影響評価の実施を決定
2014年7月 スウェーデン政府がECを提訴
2014年9月~ パブリックコンサルテーションの実施
2015年1月
2015年12月15日 EU通常裁判所がECの不作為の違法を認める判決
2016年6月15日 ECがEDC判定基準案(COM(2016) 350)を公表
し、BP規則とPPP規則付属書Ⅱの修正案を提出
2017年2月28日 PAFF委員会がサマリーレポートを公表
2017年7月4日 PAFF委員会がEDC判定基準案を承認
2017年10月4日 欧州議会がPPP規則修正案を否決