・内分泌かく乱化学物質の判定基準案を欧州議会が否決!
理事 粟谷しのぶ
内分泌かく乱化学物質(EDC)の有害性が明らかになってきている一方で、それに対する規制は世界的にも遅々として進んでいません。
内分泌かく乱作用を有すると言われている化学物質は数多にのぼりますが、どのような基準で EDC を特定し、規制対象とするかを決めるのは容易ではありません。
EU はその基準づくりにここ数年来取り組んできました。JEPA ニュース101号*1では、2016年に欧州委員会(EC)がEDC の判定基準案を提出したことをお伝えしました。
今回はその続報をお伝えします。
EUにおけるEDC規制
いまEU が規制のための判定基準づくりをしている製品は、植物保護製品とバイオサイド製品です。
EU は、農薬を含む植物保護製品については、2009年に植物保護製品の上市に関する規則(PPP 規則)*2を採択し、人に対して有害影響を及ぼすおそれのあるEDC の上市を原則として禁止しました。
バイオサイド製品については、2012年に、殺生物性製品の上市及び使用に関する規則(BP 規則)*3を採択し、これについてもEDC を原則として上市禁止としました。
これらの規則に基づき、EC は2013年12月までに EDCを判定するための基準案づくりをすることになっていました。
しかし、基準案づくりは、産業界の圧力によって難航を極め、2013年12月の期限を大幅に超過して、EC は2016年6月15日にようやく基準案を公表しました*4。
いかなる物質をEDCとするか?
EC の基準案は、WHO 国際化学物質安全性計画(IPCS)の定義をそのまま採用し、EDC を「内分泌の機能を改変し、それによって健全な個体またはその子孫、(下位)集団の影響に有害影響を及ぼす外因性物質またはその混合物」と定義しました。
そして、この定義を前提として、EDCと判定するためには、
①有害影響があること、
②内分泌かく乱の作用機序があること、
③有害影響と作業機序との間に因果関係が認められること、という3つの要件が必要であるとしました。
また、③の因果関係の判断にあたっては、生物学的に妥当性 のある 合理的 な 証 拠(reasonable evidence)による裏付けを求めました。
しかし、合理的な証拠による裏付けが必要となると、EDC の疑いがある物質については、証拠不十分で規制できないということになりかねません。
しかも、EC の基準案は、ハザードベースでの規制が必要としつつも、いくつかの条件を満たせばリスクベースの規制をしてもよいという規制の抜け穴をつくりました。
これでは、実質的に規制が必要な多くの物質が規制の網を免れることになり、予防原則の観点からも妥当とは言えません。
この基準案に対しては、多くの市民団体や科学者が反対をし、EDC の疑いがある物質についても規制対象にできるようにするべきと主張しました。