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出典:私たちと子どもたちの未来のために
・植物生長調整剤:アトラジン
微量でカエルの内分泌・生殖器官に影響
アトラジン atrazine はトリアジン系の除草剤である。トリアジン系除草剤にはCAT(シマジン)やアメトリン・シアナジン・シメトリン・メトリプジンなどがある。
アトラジンはゲザプリムという商品名で知られ、シンジェンタ社が製造する。
トウモロコシやサトウキビ・アスパラガスなどの栽培に使用され、混合剤は芝生や非農耕地の除草に使用される。
内分泌系への影響
アトラジンはホルモンかく乱物質(環境ホルモン)として疑われてきたが、高濃度での影響として考えられてきた。
しかし、低濃度のアトラジンがアフリカツメガエルの性分化に影響を与えることが最近分かってきた。アフリカツメガエルは、実験によく使われるカエルである。
2002 年 3月カナダのコンコーデア大学のタベラメンドーザらのグループは、アフリカツメガエルの性分化に対する低濃度のアトラジンの影響を報告した。
21 ppb のアトラジンを含む水にアフリカツメガエルのオタマジャクシを、性分化をする時期に 48 時間曝した [1]。
組織検査でアトラジンに曝したオタマジャクシは精巣容積が 57% 減少した。
また、将来精子に分化する精原細胞は70% 減少した。
また、発達中の生殖細胞に栄養を与える細胞も 74% の減少も示した。
また精巣の形成不全や無形成も見られている。この研究は、精の分化が起こる時期に、低濃度のアトラジンに短期間曝すと、アフリカツメガエルの繁殖に重大な影響を与えることを示している。
更に、2002年 4 月 16 には、カリフォルニア大学バークレー校のヘイズらのグループは、更に低い、日本の環境中でも検出される濃度のアトラジンに、ふ化からオタマジャクシの尾が消失するまでアフリカツメガエルを曝し、性分化に対する影響を調べた [2]。
アトラジン濃度は 0.01 ppb から 200 ppb であった。
アトラジンに被ばくしたカエルは、アトラジン濃度0.01 ppbに曝したものを除いて、16%-20%の個体の生殖腺に異常が見られた。
生殖腺の異常には、1 個体に最多で 6 つまでの生殖腺の過剰形成や、同一個体が精巣と卵巣の両方を持っていることがあった。
このような異常は対照(アトラジンに被ばくしていないカエル)では見られなかった。
雄のカエルは、繁殖のために雌を呼ぶ。このときに発声器官が重要であり、雄が大きな発声器官を持つ。研究者は発声器官の指標として、喉頭の筋肉の太さを調べた。
アトラジンに曝された雄カエルでは、筋肉は細くなった。雌には影響がなかった。この影響が現れる閾値は 1 ppbであった。
オタマジャクシは小さすぎるのでホルモンに対する影響を調べることができない。
そのため研究者らは成熟したアフリカツメガエルを使用した。
成熟した雄カエルを 25 ppb のアトラジンに曝すと、血漿中テストステロン濃度が対照の約 10 分の 1 に低下した。
ここで紹介した 2 論文は、低濃度のアトラジンが、発達中のカエルの生殖腺や性的特徴である発声器官の発達に影響を与えることを示している。
また、カエルの性ホルモン濃度にも大きな影響を与えることを示している。
その後、ヘイズらのグループ [6] は、アトラジン使用の多い米国中西部のユタ州からアイオワ州までの8か所でウシガエル Rana pipiens を採取し、アトラジン濃度を調べた。
この結果、アトラジン使用量が少ない地域でもアトラジン汚染が見られ、検出限界(0.1 ppb)より低濃度のアトラジンを含む場所を除く全ての場所(0.2-6.7 ppb)の雄カエルが、性腺の発達不全や半陰陽が見られた。
特に、0.2 ppb以上のアトラジンを含む全ての場所のカエルの精巣中に卵が見られた。
実験的に、ウシガエルのオタマジャクシをアトラジンに曝した場合、雄で精巣の発育不全や卵を持つ精巣が、0.1 ppb及び25 ppbという同じ様な濃度で発生した [6]。
これはアトラジンがテストステロンをエストロゲンに変える酵素、アロマターゼを誘導し、エストロゲンを増やすために、雄カエルで精巣の発達不全や半陰陽(精巣の中に卵がある)を導いたと考えられている。
アロマターゼへの影響は魚類や両生類・ほ乳類で知られている[6]。
ヘイズらの研究には反論もあり、同じ様な実験で「私たちはアトラジンが生殖腺の異常を起こさないと言わないが、私たちはヘイズと同じ閾値レベルでそれを見なかった」という研究者もいるが、その研究費はスイスのアトラジン製造をしているシンジェンタ社から出ているという [7]。
アトラジンに関する日本の水質基準は設定されていない。
WHOの飲料水のガイドライン値は2 ppbであり、カエルで影響が現れた値の 20 倍となっている。日本の水質検査でも影響が出る値に匹敵する濃度が河川水から検出されている。
オタマジャクシはほとんどを水中で生活し、そのため影響が大きく現れる可能性があり、アトラジンと地球規模での両生類の減少との関連が疑われている。
人間を含む他の動物で、環境中で遭遇するアトラジンがどのような影響を与えるかは不明であり、影響を与えるとも与えないとも言えない。
また、シマジンなどの類似化合物でこのような影響が現れるかどうかについても懸念される。
さらに、トリアジン系除草剤全体の総合的作用も検討する必要がある。
その他の問題(発癌性)
この除草剤は急性毒性は弱いと考えられている。
マウスの腹腔投与でリンパ腫を [3]、ラットの経口投与で雄で乳癌が、雌では子宮癌と白血病とリンパ腫が有意に増加した [4]。
また雌ラットで乳癌の発生を促進するという報告もある [5]。
また、変異原性も確認されている。
アトラジンは、安全性や有効性の問題のために、フランスやドイツ・イタリア・スウェーデン・ノルウェーなどで禁止されている。
この薄い農薬スープをいつまで飲むのだろうか。