催奇(さいき)形影響 (器官毒性も見よ)
● 妊娠した時期にマウスにトリクロルホンを、100 mg/kgまたは200 mg/kgを1回腹腔投与し、妊娠3日目に胚を調べると、投与しなかったマウスより細胞数が少なく、小核が多く見られた。
妊娠9日目では、投与しなかったマウスより体節数が少なく、染色体数の異常な細胞群が見られた[11]。
● トリクロルフォンは、55日に55 mg/kgの投与量を投与した場合、ブタの子供に歩行不能と振戦(しんせん)を引き起こした[1]。
● ディプテレックスは、妊娠ラットに胃管を通して480 mg/kg/日を妊娠6日から15日に投与した場合、催奇形があったが、妊娠8日あるいは10日のみに投与した場合はなかった[1]。
● 催奇形的影響は、妊娠7から11日に400 mg/kg/日を投与したハムスターでも認められた[1]。
● 約150 mg/kg/日をえさに混ぜて食べさせたラットの三世代研究[1]、あるいは50-70 mg/kg/日の投与量で行ったウサギの代謝研究で、奇形発生の証拠はなかった[1]。
● トリクロルホンは脳の奇形(低形成)を生じる。
低形成が起こる敏感な時期と投与量を、テンジクネズミで調べた。
必要な投与量は3連続日で100 mg/kgであった。
最も敏感な時期は小脳では妊娠42-44日、大脳では48-50日であった。脳のほとんどの部位の重量が減った。
小脳は最も脆弱な部分であるが、延髄や視床下部も重量が減った。
この奇形作用のメカニズムは不明であるが、DNAのアルキル化やDNA障害の修復機構への影響が考えられる[6]。
● ハンガリーのある村で、1989-90年に出生した15人中、11人(73%)が先天異常であり、6人が双子であった。
11人の中、4人はダウン症候群であった。
このような先天障害が群発した考えられる原因(既知の催奇性要因・家族性遺伝・近親婚)は除外された。
症例対照研究と環境調査により、地域の養魚場でトリクロルフォンの過剰使用に容疑が指摘された。
この化学物質の魚中の濃度は非常に高く(100 mg/kg)、ダウン症候群の赤ん坊の全母親を含む、数人の女性は、観察された先天異常に決定的な時期に汚染魚を食べていた。
この他の先天異常には、心室中隔欠損+肺閉塞や先天性鼠径ヘルニア・気管支狭窄・鎖肛・口唇裂・ロバン連鎖などがみられた。
● ハンガリーの村でトリクロルホン汚染魚を食べた女性でトリソミーの発生は第2減数分裂時の誤りによるものであった。
ドイツのビーレフェルト大学の研究者はマウスの卵細胞で異常発生メカニズムを探った。
トリクロルホンによって、卵細胞の紡錘体に異常が起こり、染色体の分離に誤りが生じることが分かった[5]。
突然変異影響
● トリクロルフォンまたはその変性産物が、細菌とほ乳類細胞で突然変異をおこすことを、研究が示している[1]。
● この殺虫剤は、耐えることのできる最も多量を、または少ない量を繰り返して投与した時、マウスで突然変異を起こす[1]。
発癌(はつがん)影響
● 37.5-75 mg/kg/日のトリクロルフォン経口投与により、ラットで腫瘍が発生することが知られている[1]。
● 186 mg/kgを経口投与、あるいは186 mg/kg/日を6週間筋肉注射したラットで、発癌影響が見られている[1]。
● トリクロルフォンをラットに経口、あるいは皮下に投与した場合、「乳頭腫(にゅうとうしゅ)」と呼ばれる良性腫瘍が、前胃上皮に発達した。6か月間生存したラットには様々な程度の肝臓障害があった[1]。
●マウスにトリクロルフォンを経口、腹腔、経皮投与した場合、発癌性の証拠は認められなかった[1]。