東京ガス豊洲工場跡地の土壌汚染
1956年に操業開始した東京ガス豊洲工場の都市ガス製造は、1988年までの32年間、石炭などを原料としていたために、ベンゼン、シアン、ヒ素、水銀、鉛、六価クロムなどの有害物質がコークス炉などの製造工程で副生され、敷地土壌と地下水を高濃度に汚染してしまった。
2002年の東京ガスの調査によると、汚染の最大値は、土壌溶出量が環境基準のベンゼン1500倍、シアン490倍、ヒ素49倍、水銀24倍、鉛9.3倍などで、地下水が環境基準のベンゼン110倍、ヒ素94倍、シアン49倍などであり、かなりの高濃度汚染であった。
2006年までに東京ガスが約100億円をかけて土壌汚染対策を実施し、都も対策完了を確認していた。
築地移転反対運動の高まりと筆者ら環境学会の指摘を受けて、2007年の都知事選後に石原知事は、再調査の必要性を検討する専門家会議を設置した。
2008年に再調査結果が発表されたが、衝撃的なものだった。
表層土壌から環境基準の4万3000倍のベンゼンと860倍のシアンが検出され、地下水からも環境基準の1万倍のベンゼンと130倍のシアンが検出された。
2008年に現地盤面から2mまでの土壌をすべて入れ替え、建物下の地下水は環境基準まで浄化するという対策案が提案され、それに要する費用は約1000億円と国内最大級の土壌汚染対策だった。
豊洲市場土壌汚染対策の問題点
多額の土壌汚染対策費用に驚いた石原知事は、2008年に専門家会議を解散し、都のコントロールがきく非公開の技術会議をつくり、費用の節減を図った。
汚染土壌処理後の土壌再利用、建物周囲の遮水壁撤去などにより、約600億円に半減させた。地下空洞設置もこの頃に決定され、盛り土費用の節減に寄与したと考えられる。
豊洲新市場の土壌汚染対策は、4.5m の盛り土、敷地周囲の遮水壁、地下水位を海抜2m 以下に保つことがポイントであるが、地下水位は揚水本格稼働の2016年10月以前は3~5mと高いままであり、海抜2~6.5m に位置する盛り土が汚染地下水に浸かり、再汚染が起こっている可能性があった。地下水位を下げられなかった理由は、豊洲の土壌が粘土質であるために地下水の汲み上げ用井戸が目詰まりを起こし、揚水に失敗したと考えられる。
汚染地下水の残存、盛り土の再汚染、地下水や土壌からのベンゼン、シアン、水銀の揮発、ヒ素含有地下水の毛細管現象による地表への上昇などが今後起こる可能性がある。