―私たちはどの程度の量のネオニコ農薬にばく露しているのでしょうか。
J 2012年から2013年に国内の3歳児223人を対象に行われた調査では、尿中から何等かのネオニコ農薬が検出される児童が79.8% いました。
ネオニコ農薬の総量で最高の人が308.2nmol/L、幾何平均値は4.9nmol/L です。
マウスの実験では、1日に体重1kg 当たりニコチン3mg を投与すると母マウスの血中のニコチンは喫煙者レベルと同じ程度(数十から数百 nmol/L)くらいになりますから、ネオニコ農薬濃度が最高値では、喫煙レベルのニコチンと同程度にばく露していることが予想されます。
Y 農薬のヒトへの影響は、個別のばく露量やばく露時期がわからないので評価が非常に難しいです。
医薬品の場合は処方箋が残っていますから、どの人にいつどの医薬品を何 ml あるいは何 g 投与したかという確実な証拠があります。
ところが農薬にはそれがありません。
ばく露状況が各個人で違っていて、しかもばく露量の差も大きいのです。
本当は、ばく露が高い人がどのくらいいるのかを全国的に調べるべきですが、それは行われていません。
J 有機リン系農薬の代謝物も子どもたちの尿中から100%検出されています。
1980年代に比べれば減ってはいますが、有機リンの代謝物は DMTP が最高値で1621.1nmol/L、平均値が36.9nmol/L、∑ DMAP が最高値で2158.5nmol/L、平均値で167.3nmol/L と、ネオニコ農薬とは桁違いに多いのです。
さらにピレスロイド系農薬の代謝物も子どもたちの尿中から100% 検出されています。
このように農薬だけでも、ネオニコ農薬と有機リン系農薬、ピレスロイド系農薬に複合的にばく露していることがわかっていますが、複合ばく露の影響については全くわかっていません。
研究者にとっても、複合ばく露の実験は費用も手間もかかり大変なので、なかなか研究が進まないのです。
―これから私たちはどのような対策をとればよいのでしょうか。特に農薬へのばく露についてお聞かせ下さい。
Y 国がネオニコ農薬を規制するには何年もかかりますが、無農薬の野菜を食べることは個人の努力でできます。
政府が何と言おうと私は無農薬作物を食べますと言えばいいのです。
また、幼稚園や保育所、小中学校で給食を無農薬にしましょうということも有効です。
そうすると無農薬の野菜が定期的に消費されるようになり、無農薬栽培がますます広がります。
J 発達神経毒性のある農薬のばく露を避けるには、無農薬や有機農業の推進が重要です。
農薬は腸内細菌叢に悪影響を及ぼすことも報告されており、最近出された、腸内細菌叢の異常と自閉症との間に関連があるという報告にも注目しています。
脳の発達には免疫系も重要なのですが、腸内細菌がおかしくなると免疫系が異常となり、脳の発達にも障害が起こるのです。
一部の自閉症児では、腸内細菌の改善で自閉症状が改善するという報告も出ています。
腸内細菌叢の異常が起こる理由として、農薬の影響の他、殺菌剤や抗菌剤の過剰使用もあげられます。
有害な環境化学物質を排除し、自然に寄り添って生きていくしか、ヒトが生き物として健康に生きる道はないのではないかと思います。
無農薬/有機農業の推進はそれにつながることだと思います。
―ありがとうございました。
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(本稿は、2017年2月6日にインタビューを実施し、広報委員会で構成をし
たものであり、文責は広報委員会にあります)