3:環境化学物質による子どもの脳の発達への影響について | 化学物質過敏症 runのブログ

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ネオニコ農薬でも、脳発達への影響に関わる発達神経毒性をネズミで証明した論文が2016年に出てきています(後で詳しく述べます)。
2012年に米国小児科学会は「農薬へのばく露は、脳の発達に影響を及ぼし健康障害を引き起こす」という公式声明を発表し、社会に対して警告しました*7。2015年には国際産婦人科連合会(FIGO)が、農薬や環境ホルモンなど有害な環境化学物質へのばく露によって、ヒトの生殖や異常出産が増え、子どもの健康障害や発達障害が増加していると警告しました*8。世界保健機関(WHO)も2007年から環境ホルモンや大気汚染、農薬などが子どもの健康に悪影響を及ぼすことを懸念して取り組みを進めています。
Y 経済協力開発機構(OECD)加盟国の農薬使用量と自閉症や発達障害児の有病率を比較してみると、単位面積あたりの農薬使用量が世界2位と1位である日本と韓国が、発達障害児の有病率でもともに世界2位と1位で一致しています(図2)。農薬使用量と発達障害児の増加の関係は無視できないと考えています。

―ネオニコ農薬による脳の発達への影響について、どのようなことがわかっているのですか。
J ネオニコ農薬は、神経細胞など体内に広く分布するニコチン性受容体に特異的に作用し、直接かく乱します(図3)。脳の発達だけではなく、内分泌系や免疫系などいろいろなところに悪影響を及ぼします。有機リン系農薬よりも根源的な作用かもしれません。
ネオニコ農薬の哺乳類への影響に関しては、様々な研究が報告されてきています(表1)。低用量の長期ばく露でも発達神経毒性や生殖毒性が報告されてきています。
2016年に国立環境研究所は、マウスにネオニコ農薬の一種であるアセタミプリドを与える行動実験を行いました。これは、母マウスの妊娠期と授乳期に経口投与でアセタミプリドを与えて、胎盤と授乳を介してアセタミプリドにばく露した仔マウスの行動を発達後に観察するというものです。一日に体重1kg あたり1mg(低用量群)あるいは10mg(より高用量群)のアセタミプリドを妊娠6日目から出産後21日目まで母マウスに35日間継続して経口投与して、仔マウスの行動を観察しました。その結果、オス仔マウスでのみ低用量群でより強く(高用量群でも)不安に対する情動反応の低下または多動性がみられました。また、低用量群でのみオス仔マウスに特異的な性行動、攻撃行動の異常が観察されました。この研究結果は国内外で発表され、ネオニコ農薬が発達神経毒性を示すことがはっきり証明されました*9。
 我々の新しい論文では、ネオニコ農薬を低用量長期ばく露したラット神経細胞培養で、脳の発達に重要な遺伝子群に発現変動がみられたことを発表しました*10。変動した遺伝子には、自閉症関連遺伝子や癲癇の発症に関わる遺伝
子も含まれており、ネオニコ農薬が脳発達に障害を起こす可能性が示唆されました。
―ネオニコ農薬は害虫に対する殺虫効果は高いけれど、ヒトには影響がないと言われることが多いです。それについて最近の研究ではどのようなことがわかっているのでしょうか。
J ネオニコ農薬は、神経伝達物質であるアセチルコリンに代わってニコチン性アセチルコリン受容体に結合し、情報伝達をかく乱します。このニコチン性受容体は、胎児期から青年期を通じて多量に発現し、脳の正常な神経回路の形成に重要な働きをしています。このようなかく乱毒性は、ハチのみならず様々な生物に影響を与えます。ただし、急性毒性ではないので影響はわかりにくいところがあります。
ヒトへの影響については総説が出ており*11、アメリカで行われた調査では、イミダクロプリドへの母体経由のばく露で、子どもの先天性心臓奇形、無脳症、自閉症スペクトラム障害との間に有為な相関関係がみられました。日本では、群馬県で残留農薬や空中散布によって農薬にばく露し、急性/亜急性中毒症状を起こした例でネオニコ農薬のヒトへの毒性が最初に気付かれ、中毒患者の尿中のネオニコチノイドの代謝物を調べたところ、アセタミプリドの代謝物との強い相関関係が確認されました。総説でもネオニコ農薬はヒトに対しても健康影響を及ぼす可能性を強調していました。ただ、まだ疫学論文の数が少ないので、さらなる研究が必要です。
Y ネオニコ農薬はヒトのニコチン性(アセチルコリン)受容体と結合し、それ自身でも、ニコチン様の興奮作用を起こすことが既に報告されています*12。しかも本来生体内で作用するアセチルコリンの興奮作用に対しても、低濃度のネオニコ農薬で種々のかく乱作用を起こすのです。ネオニコ農薬の急性/亜急性中毒例やアセチルコリンへのかく乱作用の影響をみても、ネオニコ農薬がヒトには無害と言うことはできません。