2:環境化学物質による子どもの脳の発達への影響について | 化学物質過敏症 runのブログ

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―環境要因による自閉症の発症メカニズムはどの程度わかってきたのでしょうか。
Y メカニズムについては神経回路のシナプスの形成異常によって説明することができます。

脳の神経回路は、約1000億もの神経細胞が他の神経細胞とシナプス結合によってつながってできています。

ヒトの脳、特に脳の高次機能が発達するためには、数千の遺伝子が順序よく働くことが必須です。

脳の機能を担う神経回路ができる過程で、膨大な遺伝子を一つひとつ順序正しく発現するための調節をしなければなりません。

胎児の段階から、脳の中でも、次はこの遺伝子、その次はこの遺伝子がというように遺伝子の働きの調節を何億回と繰り返した上で、赤ちゃんが生まれてくるのです。

これをほぼ間違いなくやるというのは本当に奇跡的です。
ただ、この遺伝子の働きの調節は、実際には多様な環境要因によって影響を受けます。

その結果、定型的な発達であっても、一人ひとり異なった神経回路群が形成され、異なった脳(人格)が形成されるのです。

個人個人ほんの少しずつ違うという程度であれば、個性のレベルですからあまり問題にはなりません。

特定の行動に対応する特定の神経回路が脳内で正常に発達できなかった場合は、社会で生きていくのに支障が出てくることもあります。

たとえば学校で落ち着いて座っていられず、授業が受けられないといった形で問題が生じます。
 環境要因は、シナプスの形成にかかわる遺伝子発現を変化させ、自閉症発症の引き金をひくと考えられます。

自閉症関連遺伝子の多くが、シナプスに関連した遺伝子です。
自閉症以外の発達障害についても同様のメカニズムがはたらいていると予想されます。

このような意味で、私たちは、発達障害は、統合失調症、鬱病などの精神疾患を含む「シナプス症」(synaptic disease)であると考えています。
―具体的にどのようなものが環境要因として考えられるのでしょうか。
J ここ50~60年で劇的に増えた環境要因としては、発達神経毒性を持つ環境化学物質が脳内に侵入することによる影響が大きいと考えています。

脳内に侵入する発達神経毒性を持つ環境化学物質としては、バルプロ酸やサリドマイドといった医薬品、鉛や水銀などの重金属、残留性有機汚染物質、PCB、ダイオキシン、有機塩素系農薬、ビスフェノール A やフタル酸エステル等の環境ホルモン、有機リン系農薬やネオニコチノイド系農薬(以下「ネオニコ農薬」)、大気汚染物質、遺伝子 DNA に突然変異を起こす発がん物質や放射性物質があげられます。

PM2.5からは重金属類や農薬が検出されており、日本人は皆、有害な環境化学物質に複合ばく露していると言えます。
その他にも、早産や低体重児といった出産前後のトラブル、虐待やネグレクト、低栄養といった養育期のトラブル、母体や新生児期・乳児期の感染症、感染による炎症反応などの免疫異常といったことが発達障害の環境要因として考えられます。
ただ、早産や低体重児は喫煙や有害な環境化学物質へのばく露によっても起こるので、環境化学物質の影響とつながっているとも言えます。

また、両親の虐待についても、もともと両親の神経回路が有害な環境化学物質によって影響を受けていた場合があるとも考えられると思います。

免疫異常についても、環境化学物質による腸内細菌叢の異常というのが一つの要因として考えられます。このように全て環境化学物質汚染と関わっているとみることができます。
―発達神経毒性を持つ環境化学物質の中でも特にこの環境化学物質が危ないということはわかっていますか。
J 農薬については数多くのデータが蓄積されてきています。

有機リン系農薬については、アメリカにおいて、有機リン系農薬へのばく露により IQ の低下、記憶や学習能力の低下、ADHD 発症リスクの上昇などを示す論文が2010年頃から次々と発表されています。

2016年に中国で行われた調査でも、母子の尿中に有機リン代謝物が高いと脳に悪影響が出るという論文が出されました*3。

最近では、動物実験や疫学研究から、発症しやすさに関わる遺伝子と有機リン系農薬のばく露の関連もわかってきました。
このように有機リン系農薬が脳の発達に悪影響を及ぼすことは多くの研究から確認されてきています。

他方で、有機リン系農薬の使用量は近年減少傾向にあるにもかかわらず、発達障害児は増加し続けているので、有機リン系以外の有害な環境化学物質の関与も予想されます。
ピレスロイド系農薬についても、ピレスロイドへのばく露と ADHD との関連を指摘した論文*4、脳内血管系発達に影響を与えるという論文*5、精子の減少を明らかにした論文*6などが発表されています。