環境化学物質による子どもの脳の発達への影響について | 化学物質過敏症 runのブログ

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出典:ダイオキシン・環境ホルモン国民会議

・黒田洋一郎先生・木村‐黒田純子先生インタビュー
環境化学物質による子どもの脳の発達への影響について
取材執筆=広報委員会
最近の研究から、自閉症をはじめとする発達障害の発生には環境要因が大きく影響していることがわかってきました。

農薬をはじめとする有害な環境化学物質が子どもの脳の発達にどのように影響しているか、これまでの研究からどのようなことがわかってきたかについて、環境脳神経科学情報センター代表で首都大学東京大学院客員教授の黒田洋一郎先生、公益財団法人東京都医学総合研究所、脳発達・神経再生研究分野の木村‐黒田純子先生にお話をうかがいました。

(以下では、黒田洋一郎先生の回答をY、木村‐黒田純子先生の回答をJとします)
―発達障害児がここ数十年で急増しています。発達障害の原因として、これまでどのようなことが考えられてきたのでしょうか。
Y 発達障害にもいろいろありますが、原因について研究が進んでいるのは自閉症です。

1943年にアメリカの L. カナー医師が自閉症を報告した当時、母親の育て方が悪いという「冷蔵庫マザー説」が唱えられていました。

その後、1977年にイギリスの M. ラター医師が一卵性双生児の疫学論文を発表し、のちに自閉症は遺伝率が92%であると計算されました*1
この論文は他の論文でも引用され、自閉症の原因は遺伝子であるという説が一般化していきました。
しかし、この疫学調査は疫学的価値があるとは言い難いものでした。

まず、たった21組の一卵性双生児を対象にしか調査をしていませんでした。

しかも、当時は自閉症の診断基準も確立していなかったため、医者が主観的に自閉症かそうでないかと決めていた時代でした。

この論文を発表したラター自身も、20年後にはこの論文を引用せず、「自閉症は先天的なもの」であるという言い方をしていました。

先天的という言葉には、胎児のときの環境も含まれます。

つまりラター自身も、遺伝子だけはなく、胎内環境にも自閉症の原因があることを認めていたと言えます。
J 病気や疾患には当然のことながら遺伝子が関係しています。

ですが、これまで自閉症では遺伝子要因が過大に評価されてきました。

ラターの研究をはじめとして、一卵性双生児を対象とした疫学調査は、遺伝子が全く同じ一卵性双生児を調べれば、遺伝要因がわかるという仮説を前提としています。
しかし、最近のエピジェネティクス研究から、遺伝子の設計図にあたる DNA が同じでも、環境要因によって遺伝子が発現する表現型(個体に現れる形質)は異なるということがわかってきました。

特に脳の高次機能の発達に関わる遺伝子発現には、環境要因の関与が大きく、一卵性双生児であっても、遺伝子発現に関わる環境が異なる(例えば兄姉、弟妹の区別や有害な環境化学物質のばく露など)ことが確認されています。
また、一卵性双生児は、早産が多く、胎内の栄養状態が低栄養になりやすいといった妊娠期のリスクが高いため、発達障害のリスクが上がることも考慮すべきです。

このように一卵性双生児を対象とした疫学調査に基づく遺伝子原因説には問題がありました。
―自閉症の原因は遺伝子にあるという説は、その後どのように研究が進んだのでしょう。
Y 遺伝子技術が飛躍的に発達して、遺伝子の解析が容易にできるようになると、1990年頃からアメリカを中心に、自閉症の原因遺伝子を探そうという研究競争が盛んになりました。

自閉症の原因遺伝子を最初にみつけてノーベル賞をとろうとする研究者が次々と出てきたのです。
―自閉症の原因遺伝子はみつかったのですか。
Y 単一の遺伝子で自閉症を発症する原因遺伝子は未だに見つからず、ないということになりました。

他方で、自閉症との関係が深い遺伝子(自閉症関連遺伝子)は、何百と見つかりました。自閉症関連遺伝子の数は800から3000と言われています。

その中で特にその遺伝子の変異によって症状が発生する可能性の高いコア遺伝子は100~200程度です。自閉症のなりやすさも可能性が大きいものから小さいものまで猛烈に複雑です。

その中から「自閉症へのなりやすさに関係する遺伝子」を特定するための遺伝子研究が進められていますが、どの遺伝子がどのように関係して自閉症を引き起こすのか、それぞれの遺伝子がどの程度関与しているのか、複雑すぎてまだわかっていません。
J 2011年には、J. ホールマイヤーらが、ラターの疫学調査よりも多数の一卵性双生児を対象とした疫学調査でも、自閉症の遺伝要因は多くても37%と報告しました*2。
遺伝子だけでなく、環境要因が大きく関与していることがわかってきました。
Y 他方で、アメリカのカリフォルニア州などでは、ここ数十年で自閉症児が急増しています。

遺伝子の変化は何千年、何万年という長い時間をかけて広がります。

数年や数十年という短い期間で倍になるということは考えられません。生物学の原則から考えても遺伝ではなく環境が原因であることは明白です。
―遺伝要因ではなく環境要因が大きいということは、自閉症だけではなく発達障害全般について言えるのでしょうか。
J 自閉症については遺伝子研究が進みましたが、その他の発達障害についてはほとんど研究がされていません。

ただし、環境要因は、神経回路に関わる遺伝子の働きの調節に関わるもので、発達障害全般について言えると思います。
コミュニケーション能力が低い自閉症でも注意欠如や多動性がみられる人など、症状は様々に重なり合って併存しています。

かつて米国精神医学会は、自閉症をアスペルガー障害や症状の軽い広汎性発達障害と区別する診断基準を採用してきました。

2013年に診断マニュアル(DSM5)が改訂され、遺伝性が原因のレット障害は別のカテゴリーに移動され、遺伝要因と環境要因から成る神経発達障害については、新たに「自閉症スペクトラム障害(ASD)」「注意欠如多動性障害(ADHD)」「学習障害(LD)」「コミュニケーション障害」が定義されました
(図1)。