「体臭の悩み」で登校できず対人恐怖症になる弊害も
だがここまでくると、弊害も出てくる。
前出の五味院長によれば、体臭の悩みを抱えてクリニックを訪れる患者は増えているが、実はその7割はそれほど体臭が強くない。
「スメハラで周囲に迷惑をかけている害よりも、自分がニオっているのだと悩んで、消極的になり、人間関係を築けない人たちが増える害の方が大きいのではないか」と言う。
実際、体臭の悩みから学校へ行けなくなった大学生、実はクサくないのに自分はクサいと思い込み、対人恐怖症に陥ったビジネスマンも、少数だが出ている。
「体臭は人類にとって、とても大事な役目を果している」というのは、柳沢幸雄・開成中学・高校長(東京大学名誉教授)だ。
たとえば、娘が思春期に父親の体臭を嫌うようになるのは、近親相姦を避けるという意味で大事なことだという。
においが自然状態に近いほど人間の生き残りに役立つのに、消臭剤や制汗剤が大流行しているのは、ちょっと困った問題だと話す。
拡大する「デオドラント商品」市場被害者増加、ビジネスは活況
ひと昔前までニオイ対策といえば、体や頭は入浴で入念に洗う、衣類は洗濯し、スーツは脱いだら風に当てるなどだった。
部屋が臭うようなら、空気を入れ替え、腐ったものは捨てるなど発生源をなくす努力をしていた。
使う化学物質は「重曹」と「クエン酸」という比較的安全なものだけだった(そうしている家庭は、いまもある)。
しかし現代の人たちは、学生もビジネスマンもすぐに商品に頼る。
そうした風潮の下で売り上げを伸ばしているのが、「デオドラント」(体臭や汗のニオイを防いだり、除去したりする薬剤・商品)だ。
成分を不織布などにしみ込ませた「汗拭きシート」で顔や体をぬぐえば、汗や皮脂が取り去られ、爽快に感じる。
スプレーで成分を体に吹きかけたり、成分を含む液体を体に塗ったりする「制汗剤」もあり、需要は2011年ごろから急増した。
「デ・オウ」シリーズのロート製薬、「ルシード」ブランドのマンダム、「メンズビオレ」の花王などが競っており、ドラッグストアには、男性用シャンプー・ボディシャンプーを含め、50~60もの「男性用化粧品」が並んでいる。
デオドラント商品の成分は、ニオイのもとになる細菌の繁殖を抑えるための「殺菌剤」、分泌した汗を吸収して皮膚を清潔に保つ「乾燥剤」、物理的に汗の分泌を抑制する「塩化アルコール」など、いずれも香害の原因になる可能性のある化学物質だ。
また「消臭・芳香剤」はいまや全国の半数ほどの家庭が使っているといわれており、こちらの需要も堅調だ(注2)。
「消臭力」のエステー、「ファブリーズ」のプロクター&ギャンブル(P&G)ジャパン、「消臭元」の小林製薬、「リセッシュ」の花王が競っている。
ファブリーズの場合、トイレ、玄関・靴箱、居間などに置く「置き型」、布に噴霧する「スプレー型」に加え、車のエアコンの送風口に取り付ける「車用」もある。
消臭・芳香剤の成分は、消臭剤、香料、除菌剤、界面活性剤などで、これも香害の原因物質である。
こうして香害に悩む人たちがジワジワ増えていく。
(注2)デオドラント商品や消臭剤は、以下のような消臭の仕組みの一つ、またはいくつかを使っている。
1化学的方法=悪臭の元となる成分を消臭剤の成分と化学反応させ、無臭の成分にする。
2生物的方法=抗菌剤などを用いて悪臭の元の細菌の繁殖を抑制する。
3物理的方法=悪臭の元となる成分を抑えこんだり、包み込んだりしてしまう。
4感覚的方法=強い芳香成分を加えて悪臭をごまかす「マスキング」と、悪臭の元の成分を良い香りの元となる構成成分に取り込んで悪臭がなくなったと思わせる「ペアリング」がある。
芳香剤は果物・花卉・樹木などの匂いのする合成香料で芳香をつけるもので、消臭剤と一体で使われると「消臭・芳香剤」となる。
(ジャーナリスト 岡田幹治)
runより:臭い=体臭という風潮を変えない限り悪循環を繰り返すだけだと思いますね( ̄_ ̄ i)