22:平成16年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 | 化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 runのブログ

化学物質過敏症 電磁波過敏症 シックスクール問題を中心としたブログです

・6.その他の影響 
 
6-1)化学分析による曝露指標 
 
研究協力者 欅田尚樹、嵐谷奎一(産業医科大学産業保健学部)  
 
(1)研究目的 低濃度のホルムアルデヒドに曝された際の曝露指標として生体試料中のホルムアルデヒド -ヘモグロビン付加体濃度について高感度・簡便に測定する方法の開発を試みた。

また、トル エン曝露により曝露指標としてトルエンの代謝物である尿中馬尿酸を測定して曝露の確認を おこなった。 
 
(2)研究方法  ホルムアルデヒド-ヘモグロビン付加体の定量法: 末梢血をヘパリン採血した後、生理食塩水で洗浄した後、CCl4 を添加して遠心分離し debris を除去した洗浄赤血球に蒸留水を加えて溶血したものを測定試料とした(図 1)。 

測定法の一つとしては、図2に示すように感度の高い蛍光検出器を用いたPetersonら(1987) の方法に従い、反応試薬としてcyclohexane-1,3-dioneを用い、酢酸アンモニウム、塩酸混 合溶液中で90oC、15分間反応させ、氷冷下で冷却後、遠心分離した試料をHPLCサンプルと して測定した。HPLCの測定条件は、カラム:Wakosil-(II)5C18、励起波長370nm, 測定蛍 光波長450nm, 移動相:水/アセトニトリル=70/30とした。 

第2の方法として、チャンバー内濃度評価を行ったと同様に2,4-Dinitrophenyl hydrazine Hydrochloride (DNPH)との反応による方法を試みた。

すなわち溶血試料とDNPHを60 oC温浴中 で30分間反応後、HPLCにて測定した。

HPLCの測定条件は、カラム:Wakosil-(II)5C18、測定 波長360nm, 移動相:0.2M酢酸/アセトニトリル=35/65とした(図3) 。

さらにDimedone(5,5 ‐dimethyl‐1,3cyclohexanedione)による誘導体形成を行い、HPLC-蛍光分析法も試みた(図 4)。 
 
尿中馬尿酸の定量法: 図 6 に示すように体内に吸収されたトルエンは、比較的短時間で代謝され水溶性の馬尿酸 となり尿中に排泄される。

そこで 10 週曝露終了直後および 11 週目の曝露開始前にマウス自 然排尿をプールして測定サンプルとした。

さらに 12 週最終曝露時に、曝露開始前(前日の曝 露終了後 18 時間後)と曝露終了 30 分以内の自然排尿を各個体別に採取し測定サンプルとし た。 

各サンプルを 50%メタノールで 40 倍希釈し、高速液体クロマトグラフィ HPLC にて分離定量 した。

同時に尿中クレアチニン濃度を測定し、尿中馬尿酸濃度はクレアチニン補正値として 評価した。 
(3)研究結果  ホルムアルデヒド-ヘモグロビン付加体の定量法: 第 1 の cyclohexane-1,3-dione を用いた反応系における測定の結果、図2に示すようにホ ルムアルデヒド、アセトアルデヒドのピークをきれいに分離可能であり、ヒトの血液サンプ ルでは、飲酒量に応じたアセトアルデヒドの検出が出来たが、ホルムアルデヒドに関しては、 ブランクにおいても大きなピークが観察され 2000ppb までの曝露の影響を評価できなかっ た。

そのため、他の方法を試みることとした。

 第 2 の方法として DNPH を用いた反応系を試みた。

ホルムアルデヒド、あるいはアセトアル デヒドなどのその他のアルデヒド類のピークをきれいに分離できる条件を種々に検討し、図 3に示した方法できれいに分離できることが確認された。

この方法を用いてホルムアルデヒ ド濃度を測定すると、図に示す通り広範囲にわたって直線性を認め良好な結果が得られた。

 しかし、マウス血液中のホルムアルデヒド-ヘモグロビン付加体濃度を測定した結果、ホルム アルデヒド曝露による有意な増加は検出できなかった。 

図4に示すようにDimedoneを用いた誘導体形成法により比較的安定した測定法を確立できた。 その結果、図 5 に示すようにホルムアルデヒドの良好な分離が可能で安定性の高い測定法が 確立できた。

しかしこの方法でも一部のマウスの試料を測定したがホルムアルデヒド曝露に よる差は認められなかった。 
 
尿中馬尿酸の定量法: トルエンの尿中代謝産物である馬尿酸濃度は、10 週、12 週いずれも曝露直後は約6g/g creatinine を示し、一方前日の曝露終了から約 18 時間たった曝露開始直前の尿では約1g/g creatinine 前後であった(図7)。 
 
(4)結論 ホルムアルデヒドの曝露指標として末梢血におけるヘモグロビン付加体の定量を試みた。 

種々の反応試薬を用いた測定系において検討した結果、ホルムアルデヒドのピークの分離定 量が可能であったが、今回用いた 2000ppb 程度までの曝露域においては、曝露後の生体内に おける速やかな代謝の影響もあり、化学分析による曝露指標を得ることが困難であった。

今 後さらに検出方法を改良して検討を加えていく必要性が示唆された。

一方、トルエンに関し ては、産業現場でも幅広く使用され比較的高濃度での毒性は広く知られ、曝露指標としての 尿中代謝産物・馬尿酸の測定もトルエン作業従事者には実施されている。

今回、マウス尿中 の馬尿酸を測定すると曝露直後には有意に高い濃度を示し、16時間後の翌日曝露直前の尿で は低値に復していた。

トルエンの代謝は図6,8に示すように大半が尿中に馬尿酸として代 謝され排泄されることがわかっている。

今回の実験でも曝露指標として尿中馬尿酸の増加が 観察され、有効な経気道曝露が行われたことを示すとともに、速やかに代謝されていること が示された。