・4-2 GABA 系関連蛋白分子の変動 平成15 年度までの研究で、FA 曝露(2000 ppb)によって海馬 CA1 と歯状回ではフィー ドバック抑制が減弱することがわかった。
1-ブロモプロパンの吸入曝露によってもフィー ドバック抑制の減弱が用量依存性に観察され、GABA シナプス間隙における GABA 滞在確率 の減少したことが原因で減弱したことが示唆された(Fueta et al., 2002, 2004)。
福永らは、 2000 ppb FA曝露マウスにおいてアミノ酸脱炭酸酵素(GAD) (抑制性シナプス伝達物質γア ミノ酪酸(GABA) は GAD によってグルタミン酸から合成される)のサブタイプ GAD67 の 低下を見出した。興奮と抑制の攪乱が伝達物質合成に生じたことが示唆された。
4-3 LTD への影響 STP、LTP などシナプス伝達が増強される現象のみでなく、低下する現象(LTD)に関し て検討した。
一般的に成熟した動物では LTD は捉えにくい報告が多いが、比較的よく用いら れる刺激条件(ペアパルスで 1Hz刺激を 15分間)で行った。
結果は 2000 ppb 曝露群と対照 群の LTD には差は認められなかった。
(5) 動物モデルに与えられた問いに対する意見 MCSの動物モデルの作成というミッションに関して議論にのぼった主な内容を述べる。
そもそも MCS は頻度が低い。しかも男性よりも女性の頻度が高いという。動物モデル班 では 10 週令の雌マウスに曝露を開始したが、性ホルモンレベルはシナプス伝達可塑性・抑制 性シナプスへの修飾・受容体蛋白発現調節などの報告もあり、性差の問題、性周期の問題は いつも議論にのぼった。
結局、膣スメアによる性周期のモニターはかえって刺激になる可能 性が懸念され、4年めに行われた組み合わせ実験において解剖日にのみ膣スメア観察が実行 された。
しかし性周期による影響の有無の判定は困難であった。
更年期女性に頻度が高いと いう疫学調査であったが、初めての実験ということもあって性周期をもつ週令の雌をもちい た。
疫学調査結果が今も正しいのであれば今後の実験はエストロゲンレベルをコントロール した動物も使用したほうが良いのではないかと思われた。
『過敏な状態』とはいったいどのような状態を想定するのかという議論もあった。
低濃度 曝露における閾値の有無の議論は、ハザード性がもっとも検討されてきた分野のひとつであ る『発がん』でも遺伝毒性の有無で閾値の有無を考えるというメカニズムベースになってい るようだ。
われわれの議論では、『過敏症の証明には組み合わせ実験も必要なのではないか』 という提案があった。
実際にアレルギーモデルと曝露モデルに関して組み合わせ実験を行っ たが過敏状態を実証できなかった。
単独モデルでの変動よりも組み合わせモデルでの変動が 大きければ過敏状態にアプローチできたかもしれない。
あるいは、Bell らの提唱する『時間 依存性』を考慮したモデルとして、曝露停止後の再チャレンジにおける感受性の変化をみる という方法で過敏な状態を検討できるのかもしれない。