3:平成15年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究研究報告書 | 化学物質過敏症 runのブログ

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・(5)検査項目 自覚症状 
 
 自覚症状の記入方式は、国内外で報告されている自覚症状を参考に、25 項目を選 定し、曝露前後で被験者が「ない」から「最も強い」まで直線上に自由にプロットで きるように設定し、その症状の程度を直線上の長さからスコア化した。 
 
 
検査項目 
 
・ 脈拍数 ・ 血圧 ・ 体温 ・ 指先の酸素飽和度 ・ 重心動揺検査 ・ 呼吸機能検査 
 
(6)検査実施手順 化学的清浄空間を有する病室に入院する期間は、前年度同様、6日間とした。

マス キング(汚染環境に馴化し、汚染物質負荷により症状が誘発されにくい状態)除去の ために、入院第1日目、2日目はガス負荷検査を施行しなかった。 
 
第1日目:マスキング除去   第2日目:マスキング除去 ・問診    ・一般検査    ・脈拍
 ・体温 鼓膜温度を測定(テルモ耳式体温計 ミミッピH テルモ株)      ・血圧 座位で測定      ・sPO2測定 (Onyx Nonin 社 ミネアポリス 米国)     ・自覚症状票記入   ・胸部診察および胸部X線検査、呼吸機能検査    ・呼吸器内科専門医師による診断基準に該当するかの確認作業。    ・精神科医診察 ・自覚症状記入票の自己記入と実際の症状の一致性と精神疾患除外のための確 認作業   第3日目:ガス負荷     ・負荷前問診 ・負荷前一般検査(脈拍、体温、血圧、sPpO2)       ・負荷前自覚症状票記入    ・ガス負荷(プラセボあるいは混合ガス)    ・負荷後一般検査(脈拍、体温、血圧、sPO2) 
 
   ・負荷後自覚症状票記入 ・負荷後問診 ・病室に帰室 
 
 第4日目:ガス負荷    ・第3日目と同じ 
 
 第5日目:ガス負荷     ・第3日目と同じ。 
 
 第6日目:退院前検査    退院前検査として以下の検査を行う。    ・一般検査(脈拍、体温、血圧、sPO2検査を含む) ・症状票記入 ・問診 ・退院 
 
(7) 症例の要約  被験者9名の概要をまとめて次に示す。 
 
               被験者概要 
 
症例  年齢・性   主要発症推定原因・場所                    

1  24歳男性  大学の化学研究室。アレルギー歴あり。  

2  27歳女性  化粧品会社勤務から発症  

3  27歳男性  新築ビルにおける勤務。アレルギー歴あり。 

4  25歳男性    大学の化学研究室。  

5  35歳女性  主要発症要因不明。アレルギー歴あり。(平成 14年度症例 5)  

6  26歳女性  新築住居。  

7  32歳男性  組織ホルマリン固定作業。アレルギー歴あり。  

8  30歳男性  大学の化学研究室  

9  37歳男性  建材作業で発症。中毒後遺症状と本症の境界型。 アレルギー歴あり。(平成 14年度症例 3)   
 
Ⅲ.結果 
 各検査項目とも、結果資料が膨大であるため、本年度の研究の目的と結論が理解で きるに必要十分な結果のみを記載し、必要に応じて、各検査項目の方法、結果、小考 察、および小括を含めて記載する。 
 
 各検査項目は下記の通りである。    A.自覚症状スコア   B.バイタル検査    
 
A.自覚症状スコア  プラセボあるいはホルムアルデヒド+トルエン混合負荷(1回目・2回目)した前 後で、症状に差が認められるかどうかを、独自に作成した自覚症状スコアを用いて検 討した。スコア記入票の詳細は、表A-1を参照のこと。  

本年度の曝露検査は、昨年度と同様に化学物質過敏状態を有すると判断された被験 者のみの9名で施行された。従って対照との比較は行っていない。 解析方法は以下の通りである。   

(1)症例ごとの検討  
 
各患者のスコアは、以下の方法で解析した。 (1) 曝露条件ごとに、曝露直前と曝露直後の自覚症状のスコアを、症状ごとに 対応させた上で比較する (Wilcoxon singed-rank test)。   (以下、曝露 前後比較) 

(2) 全条件での曝露後の症状スコアを、症状ごとに対応させた上で、3群間比 較する (Freidman test)。  (以下、3群比較) 

(3) 昨年度報告書と同様、曝露前後の自覚症状を比較した解析の結果をもとに 9名の被験者を以下の4型に分類できる。 
 
Type 1: プラセボでは自覚症状の増強がなく、混合曝露(1回目・2回目) のみで自覚症状増強が認められた者 Type 2: プラセボ、混合曝露(1回目・2 回目)ともに、自覚症状増強が 認められた者 Type 3: プラセボ、混合曝露(1回目・2 回目)ともに、自覚症状増強が 認められなかった者 Type 4: プラセボのみで自覚症状の増強が認められた者 
 
(2)平成 15 年度症例の曝露試験結果(表 A-1 参照) 
 
・ 症例1について    負荷の順序は:曝露1→プラセボ→曝露2とした。 

プラセボ負荷前後、曝露1負荷前後では、有意な症状の変化は認められなか った。

曝露 2 負荷前後では、負荷後に有意な症状の増強が認められた (p=0.028)(不完全な Type 1)。負荷後の 3 群比較では、プラセボ負荷後、曝露 1負荷後、曝露 2 負荷後の症状の強さを比較すると、Freidman 検定では、3 群間に差が認められていたが (p=0.041)、ボンフェローニの不等式で訂正した 場合、3群間の症状に差は認められなくなった。 
 
・ 症例2について        負荷の順序は:プラセボ→曝露1→曝露2とした。     

プラセボ負荷前後、曝露2負荷前後では、症状の強さに有意な差は認められ なかった。

曝露1負荷前後の比較では、曝露後に有意な症状の増強が認められ た (p=0.011)(不完全な Type 1)。

負荷後の3群比較では、プラセボ負荷後、曝 露1負荷後、曝露2負荷後の症状の強さを比較しても、3群間に症状の強さの 違いは認められなかった。 
 
・ 症例3について 
 
   負荷の順序は:曝露1→プラセボ→曝露2とした。         

プラセボ負荷試験前後、曝露1負荷前後、曝露2負荷前後の全てで、症状の 強さに有意な差は認められなかった。

負荷後の3群比較では、プラセボ負荷後、 曝露1負荷後、曝露2 負荷後の症状の強さを比較しても、3群間に症状の強さ の違いは認められなかった。 
 
・  症例4について      負荷の順序は:曝露1→曝露2→プラセボとした。 プラセボ負荷試験前後、曝露1負荷前後、曝露2負荷前後の全てで、症状の 強さに有意な差は認められなかった。

負荷後の3群比較では、プラセボ負荷後、 曝露1負荷後、曝露2負荷後の症状の強さを比較しても、3群間に症状の強さ の違いは認められなかった。 
 
  
・ 症例5について            負荷の順序は:プラセボ→曝露1→曝露2とした。 

プラセボ負荷前後では、有意な症状の変化は認められなかった。

曝露1負荷 前後、曝露2負荷前後では、有意な症状の増強が認められた(曝露1・p=0.017、 曝露2・ p=0.030)。

この被験者では、プラセボに反応せず、曝露で症状が強 くなるパターンを呈している (Type 1)。負荷後の 3群比較では、プラセボ負荷 後、曝露1負荷後、曝露2負荷後の症状の強さを比較しても、3群間の症状に 強さの違いは認められなかった。 
 
・ 症例6について          負荷の順序は:曝露1→プラセボ→曝露2とした。      

プラセボ負荷試験前後、曝露 1 負荷前後、曝露 2 負荷前後の全てで、症状 の強さに有意な差は認められなかった。

負荷後の3群比較では、プラセボ負荷 後、曝露1負荷後、曝露2負荷後の症状の強さを比較しても、3群間に症状の 強さの違いは認められなかった。 
 
・ 症例7について 
 
   負荷の順序は:曝露1→曝露2→プラセボとした。          

プラセボ負荷前後では、負荷後、有意な症状の増強が認められた(p=0.045)。 

この被験者では、プラセボのみで症状が強くなるパターンを呈している (Type 4)。

負荷後の 3群比較では、プラセボ負荷後、曝露1負荷後、曝露2負荷後の 症状の強さを比較しても、3群間に症状の強さの違いは認められなかった。 
 
・ 症例8について 
 
   負荷の順序は:曝露1→プラセボ→曝露2とした。       

プラセボ負荷前後では、負荷後、有意な症状の増強が認められた(p=0.046)。 

この被験者では、症例7と同様、プラセボのみで症状が強くなるパターンを呈 している (Type 4)。負荷後の3群比較では、プラセボ負荷後、曝露1負荷後、 曝露2負荷後の症状の強さを比較しても、3群間に症状の強さの違いは認めら れなかった。 
 
・ 症例9について 
 
   負荷の順序は:プラセボ→曝露1→曝露2とした。 

     プラセボ負荷前後、曝露2負荷前後では、症状の強さに有意な差は認めら れなかった。

曝露1負荷前後の比較では、曝露後に有意な症状の変動が認めら れた(p=0.001)(不完全な Type 1)。

プラセボ負荷後、曝露 1 負荷後、曝露 2 負 荷後の症状の強さを比較すると、Freidman 検定では、3 群間に有意の差が認 められていた(p=0.0000004)。

ボンフェローニの不等式で訂正しても、有意差 が認められ、プラセボ負荷後は、他の2つの曝露負荷後に比べ、症状が強いこ とが認められた。

ただし、この結果は負荷前の状態を反映しているものと考え られ、考慮出来ない結果と判断される。    
 
 
表 A-1 曝露負荷前後における自覚症状の変化について 
各症例の自覚症状スコアとその比較解析結果については表 A-2-1 ~A-2-9を参照。