・Ⅱ.方法
本態性多種化学物質過敏状態を有する被験者に微量ガス曝露負荷試験を、化学的に 正常な空間(クリーンルーム)で二重盲検法により施行し、それによって引き起こさ れる自覚的症状えおよび他覚的所見の変動を検討した。
(1)施設 使用施設はこれまでと同様、化学的清浄空間の準備が可能な社団法人北里研究所・ 北里研究所病院内に設置されている臨床環境医学センターとした。
(2)対象 平成15年度の被験者は、本態性多種化学物質過敏状態と判断された9名(以下、 本態性多種化学物質過敏状態患者という)とした。
また被験者の年齢はこれまでと同様に、20歳から40歳までとし、社会生活が極 めて制限されている者は対象としなかった。
本態性多種化学物質過敏状態の診断は、 北里研究所病院臨床環境医学センターに所属する医師が行い、第三者の医師により、 本態性多種化学物質過敏状態の診断基準に合致しているかどうかの判定を得て選択 した。
この第三者の医師としての診断は、今回もこれまで同様に呼吸器内科専門医に 委任した。
また精神疾患患者を除外するために、精神科専門医の診察を受けた。
すなわち、研 究開始時の対象選定にあたり、精神疾患の有無についての判定を行い、精神疾患を除 外した。
その詳細はこれまでと同様である。 またすべての被験者に、本微量ガス負荷試験の目的と方法を詳しく説明し、十分な インフォームドコンセントを得た後にガス負荷試験を行うこととした。
被験者は、負荷試験後の体調等によっては、任意にプログラムから離脱出来る事とした。
ま た本研究の実施については、事前に北里研究所病院倫理委員会の承認を得た。
(3) 曝露実施施設 使用施設は、前回と同様に化学的に清浄な空間の準備が可能な北里研究所病院臨床 環境医学センターとした。
(4) 負荷ガス条件 負荷物質はホルムアルデヒドおよびトルエンの混合負荷とした。 負荷濃度は下記の通りである。
ホルムアルデヒド 20ppb およびトルエン 18ppb プラセボ:0ppb
ホルムアルデヒドおよびトルエンの設定濃度は、室内における揮発性有機化合物に 関する厚生労働省ガイドライン値の1/4の濃度である。
これらの物質負荷は1日1回 とした。負荷条件は、ガス負荷室入室後5分間安静、20分間負荷、さらに5分間の 観察とした。ホルムアルデヒドおよびトルエンの混合ガス負荷については、再現性の 評価のため、曝露1回目、曝露2回目として、計2回の負荷試験を施行した。
前回までと同様、ガス負荷は、0レベルから徐々にガス濃度を上げ、約8分後に設 定濃度に到達する。
徐々にガス濃度を上げるために、この濃度では被験者がガス臭を 感じることはない。
負荷の順序は第三者の立会い医師による阿弥陀クジにより決定した。
このガス負荷試験では、被験者、および診療および検査を行う医師にはまったく 負荷の順序は知らされず、立会い医師のみがクジの内容を知り、ガス負荷装置を操作 した。
また、ガス負荷室の汚染の影響を防ぐために、ガス濃度変更の前には必ずガス負荷 室のオゾン薫蒸を行い、壁材への負荷ガスのシンク効果除去を図った。
薫蒸時間は 2 時間とし、薫蒸後はオゾンの消失を待つために、さらに2時間の換気時間を置くこと とした。