・(2)
検査所見
頭部血流量測定、神経眼科的検査、呼吸機能検査を行った結果、患者群においては、非患者群と比べて、頭部血流量の変動が大きい傾向がみられた以外は、いずれも各人に十分な説明が付けられる変動はなく、また、自覚症状との関連付けも困難であった。
動物実験
1.
目的・方法等
多種類の化学物質の低濃度暴露により神経系、免疫系あるいは内分泌系が過敏な状態になり、それらの間の情報伝達に異常状態を引き起こすことが本病態の発症に関与していると考えられていることから、10週令の雌マウスに、0、80、400、2,000ppbのホルムアルデヒドガスを3ヶ月暴露した後に[1]嗅細胞等の電子顕微鏡上変化の観察(0、2,000ppbのみ実施)、[2]視床下部、下垂体及び副腎の形態学的変化の観察並びにホルモン産生量測定、[3]海馬の病理学的変化の観察及び電気生理学的変化の測定(多くは0、2,000ppbのみ実施)、[4]脳内、呼吸器及び血中におけるサイトカイン並びに抗体価の変動測定、[5]移所運動活性の測定を行った。
2.
結果・考察
2,000又は400ppbで、軽微な嗅覚障害、視床下部―下垂体系の活性化、海馬における興奮性増大、移所運動活性の増加がみられ、さらに免疫系における細胞性免疫にかかわるTh1タイプの抑制、脳内における炎症性サイトカインの一部に増加がみられたことから、比較的低濃度のホルムアルデヒド暴露が神経―内分泌―免疫間のバランスに混乱を生じて過敏になる可能性が示されたものの、WHOの指針値に相当する80ppbでは明らかな反応はみられなかった。
今後の予定
この症例数ではその原因について明確な判断が出来なかったことから、二重盲検法では、患者群の症状変化や対照群との違いを明らかにするため、患者群、対照群ともに対象者数を増やすとともに、患者群の反応の再現性を確認するため、同一被検者への再暴露試験も実施する。また、発病の機構を明らかにするため、動物実験により低濃度での影響を解明するための各種実験を行う。
環境保健部 報告書
平成12年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書
連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
課長 :安達一彦(内6350)
専門官:中山 鋼(内6356)
専門官:鷲見 学(内6352)
http://www.env.go.jp/press/4700.html
平成16年2月13日
保健対策
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本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書
本態性多種化学物質過敏状態(いわゆる化学物質過敏症)について平成9年度から研究班を設置し、その病態解明のために動物実験や二重盲検法*1による疫学研究を実施してきた。今般、平成13・14年度の研究成果がまとまったので公表する。
*1
原因物質と思われるガスの濃度を変えて、被験者にも試験者にも曝露濃度を知らせず曝露させ、症状等の変化が濃度と相関するか否かを調査する疫学的調査手法
I 背景・経緯
従来の医学的知見では説明困難な化学物質に対する過敏状態をめぐってはさまざまな名称や定義が提唱されてきた。環境省では平成9年度から研究班を設置し、特定の疾病概念に依拠することなく、このような病態の解明のため、動物実験や二重盲検法による研究を実施してきた。
平成11・12年度に実施した二重盲検法による疫学研究では、症例数の不足等により明確な判断に至らなかった。このため、平成13・14年度には被験者数を増やすとともに、以前の被験者への同一試験の再実施により再現性を検証することにより、ごく微量(指針値*2の半分以下)のホルムアルデヒド曝露と症状誘発との間の関連性を調査した。また、発症メカニズムの解明等のため、マウスによる動物実験をあわせて実施している。
*2建築物衛生法の環境衛生管理基準(80ppb)
II 報告書の概要
二重盲検法による低濃度曝露研究(別添1)
1)
対象
いわゆる化学物質過敏症と診断され、インフォームドコンセントが十分に行われた23?40歳の32名(延べ38名)
2)
方法
本病態がごく微量の化学物質によって誘発されるか否かを検証するため、被験者32名に対して曝露室内で二重盲検法により低濃度ホルムアルデヒドガス*3を曝露させ、自覚症状、検査所見の変化が曝露濃度と相関するか否かを調べた。また、平成12・13年度被験者のうち協力が得られた者に対して同一試験を再実施し、再現性の有無を検証した。
*3
建築物衛生法の環境衛生管理基準(80ppb)の1/2(40ppb)、1/10(8ppb)、及びプラセボ*4
*4
偽薬。薬理作用の無い水や澱粉などを医薬品等の効果を評価する際の対照として用いる。今回はホルムアルデヒドを含まない(0ppb)ガスを用いた。
3)
結果
被験者を自覚症状の変化によって次の4群に分けた。
4)
考察
ホルムアルデヒドで自覚症状が増強し、プラセボでは自覚症状の増強がない(Type 1)被験者は延べ38名中7名であった(プラセボでの症状増強と8ppb及び40ppbでの症状増強の間には有意差が無かった)。
さらに、再検査が可能であった被験者5名についてみると、1回目と2回目の反応が一致したのは4名であったが、このうち、ホルムアルデヒドで自覚症状が増強し、プラセボで症状の増強がない(Type 1)被験者は1名のみであった。
これらの結果から、今回の二重盲検法による低濃度曝露研究では、ごく微量(指針値の半分以下)のホルムアルデヒドの曝露と被験者の症状誘発との間に関連は見出せなかった。
動物実験
平成13・14年度は平成12年度の調査研究を踏まえ、ホルムアルデヒド長期曝露マウスにおける、嗅球系の形態学的解析、視床下部?下垂体?副腎軸に及ぼす影響、脳内海馬での情報処理変化の検討、免疫系への影響の検討、行動毒性の観察等を行なった。
その結果、嗅覚系におけるニューロンの活動の増強、視床下部?下垂体でのホルモン産生の障害、脳内海馬におけるシナプス伝達の異常等が明らかとなった。
III 今後の課題と対応
今回、二重盲検法による疫学研究の結果からは、いわゆる化学物質過敏症患者において、指針値の半分以下というごく微量のホルムアルデヒドの曝露と症状の発現との間に関連性は認められなかった。
このことから、いわゆる化学物質過敏症の中には、化学物質以外の原因(ダニやカビ、心因等)による病態が含まれていることが推察された。
一方、動物実験の結果からは、微量(指針値以上)の化学物質の曝露により何らかの影響を有する未解明の病態(MCS:本態性化学物質過敏状態)の存在を否定し得なかった。
今後は、関係各省と連携・協力して、指針値を超えるような化学物質の曝露による未解明の病態(MCS)の研究を中心に、その病態解明のための基礎的研究、実生活における曝露状況の把握のための調査等を実施していく必要がある。
なお、ごく微量(指針値の半分以下)の化学物質曝露の影響については、複数の化学物質の同時曝露と症状発現の関係の有無について確認のための研究を補足する必要がある。
環境保健部 報告書
平成14年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 研究報告書
平成13年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 研究報告書
添付資料
平成14年度本態性多種化学物質過敏状態の調査研究 検討会・研究実施担当者
別添1 二重盲検法による微量化学物質曝露試験 概要[PDFファイル 25KB] [PDF 24 KB]
連絡先
環境省総合環境政策局環境保健部環境安全課
課長 安達 一彦 (内 6350)
専門官 野上耕二郎 (内 6352)
係長 堀 裕行 (内 6354)
担当 田辺 康宏 (内 6354)