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平成13年8月24日
平成12年度 本態性多種化学物質過敏状態の調査研究報告書
本態性多種化学物質過敏状態(いわゆる化学物質過敏症)については、平成9年より専門家からなる研究班を設置し、平成12年2月には国内外の文献調査結果等をとりまとめ、公表した。
このなかで、その原因や発病機構の解明のため、二重盲検法※、動物実験等の実施が提唱された。
平成12年度は、本病態が化学物質により誘発されるか否か等を検証するため、二重盲検法及びマウスによる動物実験を実施した。
その結果、(1)二重盲検法(ホルムアルデヒド11例(うち患者群7例):40ppb、8ppb、0ppb。トルエン(患者群1例のみ))では、[1]非患者群と比べて患者群で自覚症状の変動が大きくなったが、[2]患者群についてみると濃度が高度になるに従って症状が悪化するものから、濃度と関係なく症状の変動がみられるものまで、各人によって自覚症状に様々な傾向を示し、共通したパターンは得られなかった。
(2)動物実験では、2,000又は400ppbで神経系、内分泌系、免疫系に多少の変化がみられたが、極低濃度(80ppb)では明らかな変化はみられなかった。
なお、この症例数ではその原因について明確な判断が出来なかったことから、今後は、二重盲検法による対象者数を増やすとともに、今時対象者への同一試験の再実施により今回の症状変動を検証する等の調査研究を行う予定である。
※
原因物質と思われるガスの濃度を変えて暴露室内の人に暴露し、症状等の変化が濃度と相関するか否かを調査する疫学的調査手法
背景・経緯
本態性多種化学物質過敏状態については、平成9年より専門家からなる研究班を設置し、平成12年2月には国内外の文献調査結果等をとりまとめ、公表した。
このなかで、本病態については、多様な症状があり、その原因や発病の機構が未だ不明確であり、一定の定義や客観的な診断基準がない状況にあると指摘し、今後は、二重盲検法、動物実験等を推進し、その原因や発病の機構を解明するべきであるとしている。
この指摘を踏まえて、平成11年度は二重盲検法の予備実験、12年度は二重盲検法及びマウスによる動物実験を実施した。
二重盲検法
1.
目的等
本病態が化学物質によって誘発されるか否かを検証するため、インフォームドコンセントを十分に行った人に対して暴露室内で原因物質と思われるガスを暴露し、自覚症状、検査所見の変化が暴露濃度と相関するか否かについて実験を行った。
2.
方法
(1)
対象者の選定等
被検者はCullenの定義※に基づいて本態性多種化学物質過敏状態と診断された20?40歳までの患者群8名及び健常対照群(非患者群)4名とした。
※
Cullenの定義:1987年に米国のCullenにより、7項目からなる本態性多種化学物質過敏状態(multiple chemical sensitivity;MCS)の定義を策定した。
現在も多くの国々でこの定義が利用されている。
(2)
ガス暴露の条件
患者群の問診結果から原因物質を想定し、暴露ガスはホルムアルデヒド:7名及びトルエン:1名とした。なお、健常対照群:4名はすべてホルムアルデヒドとした。
ガス暴露は1日1物質、10分間とした。
○ホルムアルデヒド
低濃度(40ppb)、極低濃度(8ppb)、プラセボ※(0ppb)
(設定濃度は、WHO指針値80ppbの1/2及び1/10)
○トルエン
低濃度(130μg/m3)、極低濃度(26μg/m3)、プラセボ(0μg/m3)
(設定濃度は、WHO指針値260μg/m3の1/2及び1/10)
※
プラセボ:患者が暴露したガスに対象化学物質が含まれていない状態。
一般に医薬品等の効果を評価する場合の対照薬として、二重盲検法に用いる。
(3)
検査項目および実施方法
化学的清浄空間を有する病室に入院する期間は、すべて5日間とした。
マスキング除去のために、入院第1日目はガス暴露は行わず、一般検査のみを行った。
ア.
入院第1日目
:
問診、一般全身検査、呼吸機能検査、神経眼科的検査等
イ.
入院第2、3、4日目
(i)
ガス暴露前
○
自覚症状記入票への記入
自覚症状の記入様式は、国内外で報告されている自覚症状を参考に25項目を選定し、暴露前後で被検者が「ない」から「最も強い」までの100mmのvisual analog scale に自由にプロットするように設定した。
○
一般全身検査、呼吸機能検査、神経眼科的検査
(ii)
ガス暴露中:頭部血流量測定
(iii)
ガス暴露後
○
自覚症状記入票への記入
○
一般全身検査、呼吸機能検査、神経眼科的検査
ウ.
入院第5日目
:
一般全身検査、呼吸機能検査、神経眼科的検査等
3.
結果・考察
(1)
自覚症状
患者群では、プラセボ(0ppb)よりもガス暴露により自覚症状が悪化又はその傾向がみられた症例が4例、プラセボの方がガス暴露よりも症状悪化又は同程度であった症例が4例みられた。一方、対照群でも、プラセボで症状悪化した症例が1例みられた。反応のパターンから、患者群では以下の4グループに分けられた。
[1]
用量依存的に有意な症状悪化がみられた:患者群1例
[2]
有意差はないものの、用量依存的に悪化傾向のみられた:患者群3例
[3]
用量依存的に有意な症状軽減がみられた:患者群2例
[4]
用量と関係なく特定の濃度で症状が有意に変動した:患者群2例
なお、対照群では以下の2グループに分けられた。
[1]
どの曝露条件下でも、症状に有意な変化がなかった:対照群3例
[2]
有意差はないものの、用量依存的に症状軽減がみられた:対照群1例