7.2 MCSの診断
MCSは科学的医学基準を用いて疾病(disease)として認められない限り、その状態は、WHOの国際疾病分類第10版(ICD-10)に登録されない。したがって、それはデンマークの統計に含まれない。
アメリカでは、長年、MCSの問題に取組んできたいくつかの分野からの34人の医師と研究者からなる主導グループが、アメリカにおけるMCS診断に関する停滞からいかに脱するかを提案した(Consensus, 1999)。
その提案は下記を含む:
臨床的定義の標準化
診断のための臨床的計画案
臨床的定義は6項目を含み、そのうち5項目は89人の臨床医師と研究者(アレルギー学者36人、産業医23人、臨床環境医師20人、内科及び耳鼻咽喉科の専門家10人)によって承認された(Nethercott, 1993)。
この主導グルプは下記6項目を提案した。
表7.1 MCSの臨床定義のための6基準
症状は化学物質の反復曝露で再現性がある。
状態は慢性的である。
低濃度(患者の以前の耐性より低い)で体調不良が生じる。
曝露源が除去されると体調不良は改善されるか消える。
様々な関連性のない化学物質が体調不良を引き起こす。
病気の症状はいくつかの器官にまたがる。
このグループは、全ての6基準に合致する場合は、たとえ他の病気(例えば、ぜん息、偏頭痛、慢性疲労症候群、など)があっても、MCS診断は確実であるということを提案した。
このグループはまた、臨床計画と研究計画のための具体的な提案を行った。
その提案はいくつかの病気の研究を結合する可能性を含んでいる。
表7.2 臨床計画のための提案
承認されたスクリーニング用質問書
異なる診断の場合に選択されるべき病気
臨床化学パラメータ(ピアレビューされた文献中で発表されたもの)、たとえ、それらはMCSのバイオマーカーとして一般的に受け入れられていなくてもよい
定量的及び定性的な方法を用いての全てのMCS症例のフォローアップ
表7.3 研究計画のための提案
患者グループを選定するためのMCS基準(包含/除外基準が示されること)
診察された患者グループの完全な記述(病人及びコントロール)
他の環境病との重複の登録と報告
アシュフォードとミラー(2002)は、環境負荷と化学的過敏性を登録するために、健康不具合、化学物質耐性、症状のために変更を余儀なくされた生活条件、などに関する質問書の標準フォームを発表した。
クツオギアニスとダビドフ(2000)は、症状、タイプと期間、曝露、匂い及び他の要素に対する過敏性など、6つの分野におけるMCS関連の問題点を登録するために、単純な生物測定学的質問書を開発した。
この方法はデンマークにおける状態の登録に適している。
比較的簡単な方法で、以前に溶剤に曝露した人々中から、典型的なMCS症状をもつ人々を見つけることができる。
7.3 コメントと結論
これまでに、MCS診断を確認する又は論駁するいくつかの手法が提案されたが(例えば、生物免疫分析、脳機能の電子的登録、質問調査、等)、現在までの所、まだ満足すべきものではない。
デンマークの健康介護システムには、MCSの診察についても、診断についても、そのガイドラインが存在しない。
本章は、デンマークにおける将来の調査のための示唆としての提案を含んでいる。
デンマークがMCSについてのよりよい知識を獲得することが重要であり、環境病及びMCSに関し最先端を維持することは可能である。
最初に病気を定義するデンマーク基準を、そして可能なら、その病気を登録する方法を確立すべきである。