・6.4 心理学的機序
6.4.1 条件反射(パブロフの条件反射説)
古典的なパブロフの条件反射説の背景にある機序に類似したものとして、身体症状が作用への応答として生じるが、通常はそのような症状は出ない。
多くの人々は、この機序がMCS主要な原因であるという意見を持っている。
これは、症状が化学物質への曝露の結果として、例えば事故に関連して、症状が起きる時に、特に明白である(Siegel, 1997)。
これはデンマークでの状況に対応しており、そこではほとんどのMCS症例は産業医療病院から報告される。
慢性的溶剤中毒を持った多くのデンマークの患者は、恐らくある程度は外傷性(トラウマ的)出来事として、複数の中毒体験を持っている。
産業医カレン(1992)は溶剤に曝露した人々のMCSを条件反射であるとは考えていない。
トラウマ的小児期の体験(例えば身体的及び性的虐待)が原因又は促進要素として強調されている。
ひとつの調査が、化学物質過敏症患者の60%は小児期にそのような経験を持っており、その心理療法がMCS症状を軽減したということを示した。
このことが、トラウマ的出来事に関連して体験した匂いが条件反射の引き金となり得るという仮説を生み出した(Staudenmayer, 1993)。
この調査はいくつかの弱点を持っている。
例えば患者の選定基準が不明確であり、そのことが結論を弱める。
この仮説はその後さらに調査されることはなかった。
他の研究は、多種器官症状を持つ多くの人々が小児期に虐待を受けたということ、そして、激しい言葉による攻撃を受けた人々は、そうでない人々に比べてよりしばしば、軽度の症状を訴えるということを示している(Pennebaker, 1994)。心理療法がそのような患者の助けになるということは、原因仮説の間接的な証明としてあげることができる(Staudenmayer, 1993)。
条件反射を用いた方法によって、ベルギーの研究者グループは、健康な人たちに匂い関連の症状を作り出し、後でその症状をなくすことができた(Van den Bergh, 1999)。著者はMCSの機序は、少なくともその一部はパブロフの条件反射説で説明できると結論付けた。