4.1.1 トンネル工事作業中にガソリン・ヒュームに急性曝露した労働者のMCS
ダビドフ(1998)は、2ヶ月間トンネル掘削工事を行っている間にガソリン・スタンドから漏れたガソリンによって汚染された土壌からの化学ヒュームに曝露した77人の未熟練土木作業員について述べている。
最初にガソリンの匂いがすると告げられた後、2ヵ月後に作業員たちは、頭痛、めまい、目と喉の痛み、咳を訴え始めた。
トンネンル内の空気中から60ppmのベンゼン濃度が検出された。
そこで作業は停止し、トンネンルは閉じられた。
トンネンル中の全ての化学ヒュームの信頼性ある測定は行われなかった。
任意に選ばれた30人が2回、検査を受けた。
この事件の直後、及び10~13ヵ月後に10人の作業者がMCS基準を満たす症状を起こした時である。
10人の内2人は以前に化学ヒュームに曝露したことがあり、残りの8人はこのトンネル事故より前に症状を経験したことはなかった(検査を受けたトンネル工事作業者30人の26,7%)。
作業者らには頻繁には症状は出ず(少なくとも週1回)、他のMCS患者のグループよりも短い期間であった。
しかし症状はMCSに似ており、中枢神経系、呼吸器系、筋肉、じん帯と関節、胃腸系、等のいくつかの器官にその症状が出た。
症状のために仕事を辞めなくてはならない人はいなかった。
2回目の検査を受けた時、彼等の大部分は働き続けていた。
作業者らは最初の症状を経験した時に、誰もMCSについて知らなかったという点で、作業者らの集団はMCSに関して通常とは異なっていた。彼等は臨床環境医師の検査を受けなかった。
ほとんど実験のような曝露状況であったため、この調査は興味深い。以前に曝露し急性中毒に罹ったことのあるわずかの人々だけがMCSになった。
4.1.2 プラスチックへの曝露によるMCS
アメリカの航空機製造工場で、新しいプラスチック製の製品が導入された時に、50~75人の作業者が急に病気になった。
症状は急性溶剤中毒として知られているものとよく似ていた。
その製品は、フェノール、ホルムアルデヒド、メチルエチルケトンを含んでいることが分かり、工場内でその濃度が測定されたが、限界値以下であった。
12人の作業者が、毎日の職場環境で経験している様々な匂いのために、永続性の症状に悩まされた。専門家委員会が彼等を調べたが、彼等の症状を説明する他の病気を見つけることができなかった(Simon, 1990)。