・4.2 有訴者の特徴と発症原因・被害年数、改善のための工夫とその改善度 本症に関して専門的な知識がある医師の診察を受けた有訴者の性・年齢構成について国の報告があ る(環境省, 1998)。
これは、ダラス臨床環境医学センターの患者の症状出現率等を考慮し設定された「患者選択基準」(環境省, 1998)に基づく報告であり、それによると患者の78.3%は女性で(171人中134人)、 年齢は30、40、50代が多く、これらの年代で過半数を占めていた。
またFiedlerら(Fiedler et al., 1997) は本症、または本症に非常に関連の深い症状に関する 10 件の研究報告から、女性対男性の比はおよ そ8:2で平均年齢は40代であるとしている。
米国と日本では、社会的背景や人種間の体質の違いも あり、単純には比較できない点もあるが日本と米国におけるこれらの性・年齢に関する特徴はほぼ一 致しており、本調査の有訴者も同様であった。
中高年の女性が多い原因は明確にはわからないが、性 別による感受性の違い(Bell, 1996)、新築あるいは改築した家の中にいる時間の長さなどが関係してい ることが推察される。
図3から従来言われている建物の新築や改築以外にも家庭用殺虫剤類の使用や職場における暴露な ど多種多様なことが発症原因と考えられていたことから、様々な製品や排気ガスなどに含まれる化学 物質の使用方法や暴露量についての注意が必要と考えられた。
分類方法は多少異なるが、ダラス臨床環境医学センターの本症有訴者200人の報告(Ross, 1997)で は、自宅・職場の新築時に塗料、溶剤、カーペット等からの化学物質への大量の暴露が原因で発症し た人が30%と最も多かった。
また農薬や家庭用殺虫剤等の新築時以外での化学物質暴露が原因の人が 24%、医薬が原因の人が9%、麻酔を伴う手術が原因の人が7%と報告されている。建物の新築・改築 が原因で発症したとする人が最も多い点や家庭用殺虫剤等が原因とする人も多い点では本調査と共通 していたが、本調査では医薬や麻酔薬が原因の人は少なかった。
この違いの理由は明らかでない。ま た、実際には発症はひとつの要因だけではなく、複数の要因が交錯していることも推測される。
有訴者には、症状が改善して自覚症状がなくなる人もいることがわかっている。
一方、図5から高 齢の有訴者は被害年数が長い人が多い。
本調査は匿名で行っているため、追跡調査は行えず年齢と被 害年数の因果関係を示すことはできないが、高齢の有訴者には長期間身体への負担がかかってきた人 が多いことを示すことは重要であると考えられた。
本症は、「特定の医師やメディアが原因で化学物質によって体調が悪化すると信じ込まされている」 という意見(Black, 1993)がある。
しかし、発症前に本症についてほとんど、あるいは全く知らなかっ た有訴者が 58.3%いる一方で、よく知っていた人が 5.8%しかいなかったことから、そのような理由 から発症した可能性は低いと考えられた。
発症原因によって被害年数に有意差がなかったことについては、本症の回復までの期間は発症原因 の種類には大きくは依存せず、有訴者らの体質や生活環境などの要因による可能性が高いが、発症原 因別のサンプル数が多くないことから有意差が確認されなかった可能性も否定できない。
自宅および近隣における化学物質が発症原因とする有訴者の中で、引越し・別の家への長期間滞在 を行った有訴者は、その86%がそのことによって症状が改善した、あるいは少し改善したと感じてい ることから、それらの物質が本症の有訴者の健康に悪影響を与えていた可能性が高いと考えられた。
なお、図6に示す方法の多くは効果的な方法であるが、有訴者には経済的負担が大きいものもある。 有訴者は本症のために高額の医療費に苦しんでいたり、体調不良により失職している場合もあるため (Gibson 1996)、改善のための治療や対策ができない有訴者もいると考えられる。